月の南極地域は地震と地すべりのリスクあり 興味深い探査候補地に災害リスク
■月の長期滞在と月震のリスクは不明瞭
一方で、月面に着陸した無人探査機や有人月面基地が、将来的にどのようなリスクにさらされるのかはあまり良く分かっていません。分厚い大気による気象現象や、プレートテクトニクスによる火山・地震活動が常に起こっている地球とは異なり、月はほぼ真空で、地質学的にも “死んでいる” 天体であると見なされ、短期的なリスクはほとんどないものと考えられているためです。 しかし、実際には地球ほど激しくはないものの、月にも固有の地震である「月震」が存在します。その原因には天体衝突のような外的要因もありますが、月の構造変化による内的要因もあります。 特に発生原因として挙げられるのは、月そのものの縮小です。月の内部は少しずつ冷えていくため、過去数億年で直径が15m程度小さくなったと考えられます。この収縮の影響は表面に “しわ寄せ” が来ます。と言っても、月の表面は干しブドウのように柔軟ではないため、表面には多数の断層や崖が生じます。その大きさは最大で高低差150m、長さ数十kmにもなります。 断層がずれれば、地球の地震と同じく月震の原因となります。アポロ計画で設置された月震計は、表面の断層のずれによって生じたと思われるいくつかの月震を記録しています。ただし、地震計の少なさに加えて観測期間が1969年~1977年と限られたことなどが理由で総合的にデータが不足しているため、どこで発生しているかなど月震の正確な状況がよく分かっていませんでした。
■過去の大きな月震の震源は南極地域
今回新たな研究を行ったWatters氏らの研究チームは、過去にも2019年に、月の南極付近にある断層地形とアポロ計画で記録された月震との関連を調べるための研究を行いました。月の表面はNASA (アメリカ航空宇宙局) の「ルナー・リコネサンス・オービター」によって非常に高精細な画像が得られています。そしてアポロ計画で1973年3月13日に記録されたマグニチュード5程度の月震「N9事象(N9 event)」は、南極地域で発生したことが1979年に推定されています。しかし、データの性質からその精度には限界があり、推定された震源域はかなり広くなりました。そして最も可能性の高いポイントには、月震の規模に対してかなり小さな断層崖しかありませんでした。 2019年の研究では、Watters氏らは南極地域にある「ド・ジェラルーシ葉状衝上断層崖(de Gerlache lobate thrust fault scarp)」にN9事象の原因となった活断層が含まれていると考えました。これは1979年に推定された断層崖よりもずっと規模が大きいものです。Watters氏らは、複数の震源が推定されてしまうものの1つ1つのポイントにおいては精度が高くなるアルゴリズムを使って震源を推定したところ、震源がド・ジェラルーシ葉状衝上断層崖に強く関連づいていることが示されました。