「無ければ無いなりになんとかするよ」トゥージと受け継いできた島の暮らし
沖縄本島の那覇から北西に約60kmの海上に位置する粟国(あぐに)島。周囲約12kmの島に、約700人が暮らす一島一村の小さな島である。沖縄本島の周りにはリゾート開発が進む島が多い中、沖縄では珍しく起伏に富んだ海岸線と自然、沖縄古来の原風景が残る。那覇泊港からフェリーで2時間あまり、瑠璃色の海に見えてきた粟国島を訪ねた。
島の幹線道路から少し入ると、フクギの防風林やサンゴ石の石垣で囲われた赤瓦の家が見える。少し肉厚の葉を持つフクギの並木は台風から家を守り、火災の延焼をも防ぐ役割をする。 軽自動車1台がやっと通れるほどの狭い路地。庭先にはトゥージ(岩をくり抜いた水がめ)が並んでいる。昔から水に乏しかった粟国島は雨水を溜め、飲料水に利用していた。現在はあまり使われることはないが、島の南西岸から切り出した岩をくり抜き、数十人がかりで船で運んできたというトゥージは、村民が力を合わせて生活を守ってきた証であり、今も大切に受け継がれている。
粟国島への交通手段は、那覇との1日1往復(日により2往復)のフェリーのみ。島民、観光客の乗船以外に島への物資輸送の大きな役割を担っている。台風の直撃により1週間止まってしまうケースもあるという。 島にはスーパーやコンビニはないが、日用雑貨から食品を置く商店が3軒ほどある。その1軒をのぞいてみると、生活に必要なものは大体揃っている。決して新商品が置いてあるわけではないが、そこに並んでいるだけでなんとなくありがたく思えてしまう。 必要とするものがすぐ手に入ってしまう暮らしに慣れていると、無いと不安に感じてしまうが、「無ければ無いなりになんとかするよ」という島の人たちがいう言葉が響いた。(つづく) ※この記事はTHE PAGEの写真家・倉谷清文さんの「フォト・ジャーナル<島の大自然がおもてなし沖縄・粟国島>倉谷清文第12回」の一部を抜粋しました。 (2018年8月撮影・文:倉谷清文)