「1400年続く松煙墨を守れ」奈良の工房「錦光園」がCFで資金提供呼びかけ
江戸時代から150年続く奈良墨づくりの工房を営む「錦光園(きんこうえん)」(奈良市三条町)が、墨作りの主材料で消滅危機となっている「国産の松煙」の生産と継承に取り組むプロジェクトを始めた。近年、墨の需要が激減し、後継者不足などから国産松煙の製造が消滅してしまうことに危機感を感じた同園七代目の長野睦さん(47)が同プロジェクトを立ち上げ、クラウドファンディング(CF)で資金提供を呼びかけている。 墨の製造に必要な原材料は、木や油を燃やした煙の中から取り出した炭素「煤(すす)」▷天然の接着剤「膠(にかわ)」▷クスノキから摂取する「香料」―の3点。今回継承に取り組む国産の松煙は、アカマツを燃やして製造する煤の一種。1400年前に中国から墨が伝来した当時から生産されてきた歴史ある煤だ。 松煙で造られた墨は「松煙墨(しょうえんぼく)」と呼ばれ、古代から日本に伝わる「日本の墨のはじまり」だという。長野さんは「1400年伝わってきた松煙墨を途絶えさせたくない」と、墨職人としての義務感から活動を始めたと話す。
長野さんらは、川上村に煤を造る製造場所を借り、県産のアカマツを地元の林業に携わる事業者へ仕入れを願い出て確保。現在は11月9日から開始したクラウドファンディングで生産設備などを準備するための資金調達と認知拡大に努める。CFサービス「READYFOR(レディーフォー)」を通じた募集では、開始2日目に目標の100万円を達成。奈良墨の伝統への関心の高さがうかがえる。現在はネクストゴールの400万円を目指し2025年1月7日まで支援を呼びかけている。 長野さんは「奈良の産業や日本の伝統文化に興味のある方へ情報を共有いただけるとありがたい」、今後の予定については「設備の準備を完了した後、来春4月頃から実験を経て松煙の製造を開始できたら」と話している。