『誰もいない森の奥で木は音もなく倒れる』は“マクチャンドラマ”として観るのが正解?
『誰もいない森の奥で木は音もなく倒れる』は設定は秀逸なのだが……
にもかかわらず、どうもすっきりしなかったのはなぜなのか。まず、視聴しながら感じたのは、2001年と2021年の物語がうまくリンクしていないこと。2つの時代を結ぶ人物としてイ・ジョンウン演じる刑事のユン・ボミンを登場させていたが、結局結んでいたのかどうか微妙であった(2001年のボミンを別の俳優(ハ・ユンギョン)が演じていたことも、わかりにくくさせていた)。 また、2021年の物語の主人公であるヨンハとソンアの気持ちの説明も足りなかった。2人の心の行方が不明瞭なため、その争いが回を重ねるごとにヒリヒリとした心理戦ではなく単なる突拍子もないバトルになっていった。「なぜ早く警察に通報しないんだ」「もっと早く解決できたのでは」とつっこんだ人もいたのではないか。 韓国でも、予告編を観て推測した内容とは違い残念だという意見があったようだが、思い返せば、本作の演出は、あの『夫婦の世界』のモ・ワンイル監督。同作は、往年の作品に比べると上品ではあるものの、いわば“マクチャンドラマ”(現実ではあり得ない物語がジェットコースターのように展開されるドロドロ愛憎劇のこと)と呼ばれるジャンルに属する一作である。 “マクチャンドラマ”は、いろいろツッコミを入れながら観るのが流儀。つまり、『誰もいない森の奥で木は音もなく倒れる』も、かなり洗練されてはいるが、“マクチャンドラマ”的な魅力をもつ作品なのである。 劇中で語られる「投げた石にぶつかったカエルは、なぜぶつかったのかと考え続けるが、それは自分のせいでも他人のせいでもない。ただ運が悪かっただけだ」という逸話。本作の英語のタイトル名は、『The Frog』(カエル)である。最後まで観ると、『誰もいない森の奥で木は音もなく倒れる』という意味深なタイトルよりも、こちらのほうが内容にしっくりくると感じたが、いかがだろうか。
高山和佳