『おむすび』になぜ緒形直人が必要だったのか 孝雄の人物造形に込められた被災者への思い
NHK連続テレビ小説『おむすび』が現在放送中。平成元年生まれの主人公・米田結(橋本環奈)が、どんなときでも自分らしさを大切にする“ギャル魂”を胸に、栄養士として人の心と未来を結んでいく“平成青春グラフィティ”。 【写真】ついに沙智(山本舞香)も結(橋本環奈)とのプリクラ撮影に参加 第9週では、栄養士専門学校に通う結の奮闘と同時に、震災によって娘・真紀(大島美優)を亡くした渡辺孝雄(緒形直人)の“今”が描かれた。 制作統括の宇佐川隆史は、演じる緒形の起用について「渡辺孝雄は、第2章のキーパーソンともいえる難しい役で、だからこそ緒形さんのお名前がすんなりと出ました。極端なくらいの孝雄の性格をしっかりと表現できる方というところで、ぜひ緒形さんにお願いできないかと。緒形さんは非常に優しい方だとわかっておりましたが、それゆえの役への追い込み方がある。『なんでこんなことするの?』と思われてしまうようなキャラクターに説得力を持たせることができる。視聴者に『こういう人がいるんだ』と思ってもらえる、稀有な役者さんだと思います」と信頼を寄せる。 緒形にオファーをしたところ、「大切な役、丁寧にやらせていただきます」と快諾。宇佐川は「実は、方言を話す役を演じるは初めてだそうなんです。どれだけこの作品に思いを寄せて、ご賛同いただけたか。この役を演じていただけたことに、心から敬意と感謝の念を持っております」と熱を込め、「方言に関しては、地元の方が聞いてもおかしくないようにと、たった一言でも何十回も練習されていて。これが緒形さんの役作りなんだと圧倒されました」とストイックな姿勢に感嘆する。 孝雄は未だ震災による絶望から立ち直れておらず、さくら通り商店街のコミュニティからも孤立。宇佐川は、そんな孝雄の人物像はあえてシンプルなものにしたと語る。 「ドラマに合わせて、もっと感情の揺れを繊細に描くことも考えられましたが、被災者の方を取材する中で、震災を忘れられない人ははっきりと忘れられないし、思い出したくない人ははっきりと思い出したくない、ということが多かったんです。もちろん孝雄の気持ちはわかりますが、『なぜここまでするのか』という感情も湧いてくる。そこも含めて、(被災者ではない)私たちには簡単に理解できるものではない、という部分を体現しているキャラクターだと思います」 聖人には糸島の野菜を、そして歩には仏花を突き返すなど、自分に関わろうとする人を拒絶する孝雄。第10週では、そんな孝雄に対する神戸の人々の思いも描かれるといい、「『普通はそこまでやらないよね』というところを、『やらないよね』で止まるのではなく、どう一緒に乗り越えていくかが、この物語の肝だと思います。それはすなわち、私たちの理解が及ばない大変な思いをされた方に対して、どう向き合うのか。見守っていくのか、それとも、わかりたいと思うのか。全部が全部支えなければいけないわけではないですが、歩や聖人(北村有起哉)らが、どうやって孝雄と向き合っていくのかを、この物語で表現したいと思っています。それが、被災された方々と、同じ日本に住む私たちとの距離感でもあるから」と話した。 第45話のラストには、歩が孝雄に「私、お墓参りやめませんからね。だってうちと真紀ちゃんは親友ですから」と宣言。二人の思いがぶつかる同シーンの撮影について、宇佐川は「やっぱりお芝居が見事ですよね、素晴らしかったです。本番に向けてお二人の息遣いが、自然と共鳴し合っていくんです。そして、独特の空気感が生まれていく。お二人にしか表現できない空気感になっていくのは、さすがだなと感じました」と振り返る。 「リハーサルは通常通りやりましたが、細かく打ち合わせをすることはなくて。空間が二人の世界に馴染んでいくような、あの感覚が独特で。おふたりによって、その場の空気が出来上がっていく感じを、まざまざと体験しました」 次週第10週のタイトルは「人それぞれでよか」。孝雄と商店街の人々の関係性に変化は起こるのか、物語の行方を見守りたい。
nakamura omame