「ショックを受けた」「下品すぎる」Appleのプロモーション動画に批判殺到。しかし、燃えたのはほぼ日本だけその理由は?
続く要因が「相次ぐ値上げへの反発」だ。今回発表されたiPad Proは、一番スペックの高い仕様にすると42万円。およそ従来の「タブレットに使う金額」からは、かけ離れているように感じる。加えて日本では、円安ドル高が急激に進んだことにより、あらゆる物価が高騰している。それを加味した、Apple製品の国内価格もまた、それなりに上昇していることから、潜在的にたまっていた日本ユーザーのストレスが、一気に爆発してしまったのではないか。
■日本では馴染まない「なにかと比較する広告」 3つめの要因は「比較広告の受け入れられにくさ」だ。今回の映像は、楽器や家電と、新型iPad Proを比較することで、オールインワンのツールだということをアピールしたかったのだと思われる。しかし、そもそも「なにかと比較する広告」自体が、あまり日本では馴染まない。 日米間のギャップが浮かび上がった直近の例として、2023年11月の外資系ホテル「ヒルトン(Hilton)」によるウェブCMの炎上騒動がある。
早口で館内説明をまくし立てる旅館の従業員を映した後に、ヒルトンの高級ホテル「コンラッド(CONRAD)」へ場所を移し、時間にとらわれない宿泊を楽しめるとの対比を示したものだったが、SNS上などでは批判が相次ぎ、動画は非公開となった。(「ヒルトンの『旅館見下し動画』大炎上も当然の理由」) もっとも、Appleはかつて、日本でも比較広告を行っていた。たとえば、アメリカ本国で行われたプロモーション戦略「Get a Mac」キャンペーンの日本版では、お笑いコンビ「ラーメンズ」を起用。擬人化された「Mac」と「パソコン」による掛け合いをコミカルに描いたシリーズもので、「Mac」のほうが洗練されている印象を与えた。今回の騒動をめぐっては、当時のCMを思い出したとの声も、チラホラ見られている。
プレス機の映像を見て、SNS上では「ジョブズが生きていれば」との反応も少なくない。カリスマCEOであったスティーブ・ジョブズ氏の死から十数年が経過して、当時の価値観が失われているのでは、といった指摘は数多い。 そこで浮かぶのが「『らしさ』という幻影の弊害」だ。いまもジョブズ氏が生きている世界線に思いをはせ、どこかに「Appleらしさ」の幻影を見ることで、現実とのギャップを嘆いているのではないか。