津波被害と復興事業は、生態系にどんな影響を与えているのか?
生物と環境の関係を研究する「生態学」の視点で、東日本大震災を考える公開講演会が2016年3月20日、仙台市青葉区の仙台市情報・産業プラザで開かれました。講演会は年に1度の総会に合わせて一般公開の形で開かれ、約500人が参加。東北・関東の研究者5人が登壇し、地震や津波による生態への影響に加え、急速で広範な復旧・復興事業による環境の破壊が表面化していることを報告しました。
生物多様性を維持する「ホットスポット」
「津波が生物に与えた影響とその後の回復ならびに問題点」と題して報告した鈴木孝男さん(東北大)によると、津波の被害には場所によって程度の差があるほか、津波による破壊の後に、新しい干潟や塩水湿地ができているケースが数多くあるそうです。鈴木さんらはこのような干潟や塩水湿地を、生物多様性を維持する「ホットスポット」と呼ぶそうです。 震災前から全国の愛好家に親しまれていた蒲生干潟(仙台市若林区)はヨシハラがほぼ全滅したものの、3カ月後には、再生しはじめました。仙台空港の海側の農地だった場所に海水が入り、ガマが生い茂り、湿地になりました。ハマガニが生き残っているのが発見されましたが、復興事業で、農地に戻すために埋められてしまいました。 「井戸浦(仙台市若林区)では、震災前は一面ヨシハラだったところが津波で流され、干潟になっています。ここに干潟の生き物が次第にすみつき、それを狙ったシギやチドリが訪れるようになっています」 鈴木さんらは「ホットスポット」を一カ所でも多く残すために、市民ボランティアの手を借りながら生態調査を続けるそうです。 「津波被災地の土地の管理者は、国土交通省、林野庁、宮城県、仙台市、林野庁などさまざまです。それぞれが個別に復旧を目指すので、全体としてここをどうするかの議論がなされないままになっています。その結果、生き物の逃げ場を考えることなく、単純な海岸景観が作られている。被災地では自然の再生が進んでいることを考慮しなければなりません」 「豊かさの持続:よみがえる海浜生態系に学ぶ」と題して報告した平吹喜彦さん(東北学院大)は「砂浜は非常に特異な存在であり、そこにしか生息していない生き物も多い。仙台湾岸の砂浜では、津波の被害を受けましたが、一方で、予想以上のスピードで植生がよみがえり、たくさんの生き物が戻りつつある例が見られます」と強調しました。