人気低迷が深刻な米国フィギュア界と4回転の申し子チェンへの期待
米国男子フィギュア界の過去の金メダリストを振り返れば、トリプルアクセルを米国人として初めて成功させた1988年カルガリー五輪のブライアン・ボイタノにまでさかのぼる。ボイタノは、そこでライバルのブライアン・オーサー(カナダ)を破った。 続いて2010年のバンクーバー五輪でエバン・ライサチェクが金メダルを獲得しているが、「彼の驚きの勝利では(男子フィギュアスケートへの期待は)膨らまなかった。ライサチェクは、エフゲニー・プルシェンコ(ロシア)に僅差で勝利したが、この時はチェンとは異なり、4回転を含まない安全なプログラムを選んだ。チェンが金メダルを取るには誰もやったことのないプログラムでハイリスクな演技が必要だ」と指摘した。 2002年ソルトレーク五輪で銅メダルを獲得したティモシー・ゲーベル氏は、ESPNへの取材に対して、「スポーツ技術の進化に挑戦する選手を見るのは素晴らしいことで、それが米国人であればなおさら」と語っている。米国選手が遅れを取ってきたなか、チェンが技術的には、世界でもトップにあるとの意見だ。 チェンは、まず12月末から1月に開催される2018年全米選手権で五輪代表に選出されなければならないが、「その時には、もしかしたら、日本の羽生、ロシアのメドベデワ のように米国で絶大で熱烈なファンを得ることができる」とも示唆した。 それでも、「壁はもちろんある。韓国との時差も障害となる。競技として一度自滅してしまった近年の問題を拭うにも時間が必要」と警告。フィギュアは、2002年のソルトレーク五輪での採点、判定に関するスキャンダルが発覚して以来、より競技性の高いスポーツとなっているが、「1990年代にあったような推測や論争により、このスポーツの魅力の半分を奪ってしまった」という意見も書かれた。 そして米国でのフィギュアスケート人気の回復には「女子選手の活躍が必要」だという。 「テンリー・オルブライト、ペギー・フレミング、ドロシー・ハミル、キャロル・ヘイス、クリスティ・ヤマグチ、ケリガン、クワン、リピンスキー、サラ・ヒューズ、サーシャ・コーエンといった系譜に並ぶ選手が生まれれば素晴らしいのだが」 現在、18歳のカレン・チェンが有力選手だが、2015年から負けなしのロシアのエフゲニア・メドベデワの対抗馬になるほどの実力はなく、26歳のアシュリー・ワグナーには限界が見られ、グレイシー・ゴールドは、摂食障害により選手生活から離れている。現実として女子選手に前向きな兆しは見られない。 平昌五輪のシーズンに合わせたかのように、94年のリレハンメル五輪直前に「ナンシー・ケリガン襲撃事件」を犯したトーニャ・ハーディングを描いた映画『I, Tonya』が、クレイグ・ギレスピー監督、マーゴット・ロビー主演で12月初旬に全米で公開される。記事は、この映画にひっかけて「(フィギュアスケートの魅力というものを)もしハーディングが思い出させてくれなければ、おそらくチェンが4回転でそうしてくれるだろう」という言葉で締めくくられた。羽生のライバルのチェンは、全米フィギュア界の浮沈を背負って平昌五輪を目指すことになる。