重力を再定義する驚くべきスーパーカー アヴェンタドールLP750-4スーパーヴェローチェは、どんなランボルギーニだったのか? 「ニュル・ラップタイム、25秒短縮」の衝撃!
秘密は物々しいエクステリアの造形にあった!
雑誌『エンジン』の貴重なアーカイブ記事を厳選してお送りしている人気企画の「蔵出しシリーズ」。今回は、2015年8月号に掲載されたランボルギーニ・アヴェンタドールLP750-4スーパーヴェローチェのリポートをピックアップ。2015年3月のジュネーブ・ショウでデビューしたアヴェンタドールの高性能版、スーパーヴェローチェに、バルセロナのグランプリ・コースで試乗。ニュルブルクリンク北コースで、ノーマル版のラップタイムを25秒短縮する6分59秒73を叩き出したというSVの実力はどれほどか。本誌ムラカミの報告やいかに。 【写真7枚】ノーマルとは比べ物にならないダウンフォースを発生するのは物々しいエクステリアの造形に秘密があった! ◆タイム・アタックではなくタイヤ・テストだった? 「重力を再定義する(REDEFINING GRAVITY)」と題されたアヴェンタドールLP750-4スーパーヴェローチェ(SV)の国際試乗会は、今年のF1グランプリが終わったばかりのバルセロナ、カタロニア・サーキットで行われた。大小16のコーナーと1kmのホーム・ストレートを持つ全長4.6kmのグランプリ・コースは、750psの並外れたパワーを持つスーパー・スポーツカーの実力を思う存分テストするためには、またとない舞台だ。自らステアリングを握り、アクセレレーターを深く踏み込んで走る姿を想像しただけで武者震いが起きる。 試乗に先立つプレス・コンファレンスの中で見せられたビデオは、そのおののきを、さらに増幅するものだった。ニュルブルクリンク北コースでの映像。アヴェンタドールSVはそこで、6分59秒73という驚異的なラップタイムを叩き出したというのだ。7分を切ったこのタイムがいかに衝撃的かは、レクサスLFAのニュルブルクリンク・パッケージ7分14秒64、日産GT-RニスモNアタック・パッケージ7分8秒679、フェラーリのサーキット専用車599XX6分58秒16、ポルシェ918スパイダー6分57秒といった数字と比較すればわかるだろう。この中で、公道を走れる市販スポーツカーとしてSVより速いのは918スパイダーのみだ。しかし、ランボルギーニのヴィンケルマン社長は、インタビューの中でさらに強気な言葉を放った。すなわち、今回のニュルでの走りは、ユーチューブでも公開されている映像を見ればわかるように4、5回のミスを犯しており、それがなければ55秒以下だったというのだ。運転していたのはピレリのテスト・ドライバーで、タイム・アタック目的ではなくタイヤ・テストだったので、車両もタイヤも市販車とまったく同じものを使っていたという。 そこで私はこう質問した。それでは、SVはノーマルのアヴェンタドールと比べて、ニュルでどのくらい速くなったのか、と。その答えがまた衝撃的だった。なんと、20秒から25秒も速くなっているというのだ。ニュルの全長は20kmだから、1km1秒以上も速い!ことになる。 ◆リア・ウイングは3段階調整式 一体、どんな魔法を使えばそんなことが可能なのか。いや、魔法でもなんでもない。答えは大きくいって3つある、というのがチーフ・エンジニアであるレッジャーニ氏の解説だった。まずは、自然吸気V12のバルブ・タイミングやインテーク・システムを最適化してパワーを50ps増強しながら、その一方でカーボン・パーツを多用して車重を50kg軽くしたことによるパワー・ウエイト・レシオの向上。次に、フロント・ウイングやアンダーパネル、リア・ディフューザー、リア・ウイングの追加ないし最適化によるエアロダイナミクスの向上。そして最後に、可変ギア・レシオのダイナミック・ステアリング・システムや磁性流体を使った可変ダンパーの導入などによるドライビング・ダイナミクスの向上。ノーマルのアヴェンタドールとは、まるで違うクルマだと言うのだ。 中でも特に重要だと思われるのが、試乗会のキャッチフレーズにもなっているエアロダイナミクス、すなわちダウンフォースの増強だろう。実際、SVがこれまでのアヴェンタドールより遥かにアグレッシブな外観を得ることになったのは、エアロダイナミクスに関連するパーツの変更によるところが大きい。フォーム・フロム・ファンクション。まさに機能がカタチをつくっているのだ。 リア・ウイングは手動式で3段階に調整できるのだが、ダウンフォースは真ん中の状態でノーマル車に比べて170%増加しているという。今回の試乗車はこの設定だった。ちなみに、ニュルでは一番低くしてあったのだとか。それでもダウンフォースはノーマル比145%増だ。ただし、この設定ではリアよりフロントにやや多くダウンフォースがかかるというから、オーバーステア方向のハンドリング特性になるだろう。 ◆路面に吸いつくように走る それはともかく試乗車でサーキットを走り始めると、飛ばせば飛ばすほどに路面に吸いつくように感じられるのがまず印象的だった。驚異的な安定感だ。軽量化したというけれど、そう思えるのはゆっくり流している時だけで、少し右足に力を込めて速度を上げると、むしろ重厚感あふれる乗り味になる。重力の再定義とはこの感覚を言うのか、と思った。 新たに導入された可変ダンパーのおかげで路面の変化への追従性も格段に増しているようで、常に路面とパラレルな状態を保っている。今回は試すことができなかったが、一般道での乗り心地も格段に改善されているに違いない。ニュルでのタイム短縮にも、このしなやかになった足が大きく貢献しているはずだ。 エンジンは高速域での伸びやかさが明らかに増している。中回転域の圧倒的なトルクの奔流はそのままに、それがそのまま高回転域まで途切れることなく持続していく感じで、全体的にフレキシビリティが増していると思った。それは排気音からも感じられた。野太い低音が響き渡るのは不変だが、その音質はより洗練されたものになり、高速域で素晴らしいバリトンを聞かせるのだ。 もうひとつ特筆すべきは、とにかく良く曲がることだろう。ステアリングを切り込んでいくと、グイグイとノーズが内に入っていく。コルサ・モードはもちろん、スポーツ・モードでもリアが積極的に出て行こうとする気配があるのに驚かされた。低速コーナーではダウンフォースの変化が大きいから、慣れが必要だ。 全体として感じたのは、速くなっただけではなく、確実に洗練されたスポーツカーへの道を歩んでいるということだ。次はぜひ公道での乗り味を試してみたいと切に思った。 文=村上 政(ENGINE編集長) 写真=ランボルギーニS.p.A ■アヴェンタドールLP750-4スーパーヴェローチェ 駆動方式 ミドシップ縦置きフルタイム4WD 全長×全幅×全高 4835×2030×1136mm ホイールベース 2700mm 車両乾燥重量 1525kg(前47%:後53%) エンジン形式 V型12気筒DOHC48バルブ 排気量 6498cc ボア×ストローク 95×76.4mm 最高出力 750ps/8400rpm 最大トルク 70.4kgm/5500rpm トランスミッション 7段自動マニュアル サスペンション(前) ダブルウィッシュボーン/コイル サスペンション(後) ダブルウィッシュボーン/コイル ブレーキ(前後) カーボン・セラミック製通気冷却式ディスク タイヤ (前)255/35R20、(後)355/25ZR21 車両本体価格 5179万2353円(税込) (ENGINE2015年8月号)
ENGINE編集部