「早く免許を返すように…」池袋暴走事故の遺族夫が明かす「飯塚受刑者(93)からの懺悔」
「車いすを押されて面会室に入ってきた飯塚受刑者を見たとき、〈人はわずか数年で、ここまで衰えてしまうのか〉と、正直驚きました。真っすぐ座っているのもつらいような状態に見えました」 【写真あり】車いすに座っていても苦しそうだったという飯塚受刑者 そう明かすのは、2019年4月21日の「池袋暴走事故」で、妻の真菜さん(当時31)と娘の莉子ちゃん(当時3)の命を奪われた遺族の松永拓也さん(37)。 当時、車を運転していたのが、元・通産省官僚で、現在服役中の飯塚幸三受刑者(93)だ。 事故後の裁判で飯塚受刑者は、「車の何らかの異常で暴走した」と無罪を主張。しかし、東京地裁は2021年9月、「アクセルとブレーキの踏み間違いが原因」として、自動車運転処罰法違反(過失致死傷)の罪で禁錮5年の刑を言い渡し、確定。 あれから約2年8カ月たった先月29日、松永さんは飯塚受刑者と念願の面会を果たした。 「妻子の命をむだにしたくない」という一心で、事故以来ずっと高齢ドライバーの事故防止活動を続けている松永さん。飯塚受刑者との面会も、その活動の集大成として今年3月に希望を伝えていたという。 「飯塚受刑者が面会を受けてくれるか、正直、不安でした。もしかしたら断られてしまうかも、と思っていたので、受け入れてくれたことが本当にうれしかった」(以下、松永さん) ■飯塚受刑者の反省と後悔を社会に伝えたい 面会の準備を進めてきた松永さんだが、面接では予想外のことが。 「彼は衰えからか『おぉ……』という感じで、質問して3~4分待っても言葉が出てこない状態でした。 それで途中から、『はい』か『いいえ』で答えられる質問に切り替えたんです」 質問はすべて、〈国や自治体でどのような支援があれば、免許を返納していたか〉など、“再発防止”に生かすための内容だ。 松永さんの問いに、おぼつかない様子で「はい」か「いいえ」で答えていた飯塚受刑者が、唯一、自分の言葉で答えた質問があった。それは、「再発防止の観点から、世の中の高齢者やそのご家族に伝えたいことはあるか」という質問だ。 「彼は、『早く免許を返すように伝えていただきたい』と、ご自身の言葉で即答されました。あの事故を起こしてしまった彼だからこそ、世に強く訴えたいことなんだと思います。こうしたメッセージを、しっかり社会に伝えるのが私の役目です」 そう前を向く松永さんだが、こうした心境に至るまでには、つらく苦しい日々が長く続いたという。 「彼の権利だとはいえ、裁判中は、明らかに無理な主張で無罪を争おうとする彼の態度に苦しみました。だから、なんとか有罪にしてほしい、と心を鬼にして闘ったんです。 私は怒るのが苦手で、真菜と莉子にも怒った姿を見せたことがなかった。だから、そんな自分の姿を見せるのがいやで、ふたりの仏前で泣きながら謝ったほどです」 そんな松永さんの心境に変化が生じたのは、飯塚受刑者に禁錮5年の刑が確定したときだった。 「私はあのとき、刑を言い渡される彼の横顔を間近で見ながら、とってもむなしかった。 実刑が下ってうれしいどころか、むなしくて涙があふれた。 なぜ、加害者と被害者として互いに苦しみながら、こんなところにいるんだろう。なんとか事故を防げなかったのか、と」 ここから松永さんは、同じような被害者、加害者を生み出さない活動に、いっそうまい進し始める。