「早く免許を返すように…」池袋暴走事故の遺族夫が明かす「飯塚受刑者(93)からの懺悔」
さらに今年2月、飯塚受刑者から謝罪の手紙を受け取ったことで、その思いはより強まった。 「彼からの手紙には、〈これ以上時間が経ってしまうと文字を書けなくなりそうだから、その前に遺族の皆様に謝罪したい〉と記されていました。 文面から彼の反省と後悔の念が伝わってきたんです」 松永さんは、これを読み「彼の反省と後悔の気持ちを、私の中だけでとどめておいてはいけない。社会に広めることで、再発防止につなげよう」と、心に誓った。 「過ちを犯した人の言葉って、後生の人たちの大きな学びになると思うんです。誰も被害者や加害者にならないよう、彼の経験や言葉をむだにしたくないと思って」 “被害者と加害者”という本来なら相いれない立場を超えて、“再発防止”という目的に向かって共闘していこう、と決意したのだ。 ■妻は私の“道しるべ”です。再発防止活動を続けます 一方で、こうした取り組みを続ける松永さんに対し、「高齢者の敵だ」とバッシングする人もいる。 「私は決して、高齢者だけ我慢すればいいなんて思っていません。 免許を返納しても、なるべく生活の質が落ちないよう、国や自治体が返納後のサポートを強化し、そのサービスの周知を徹底すべきだと思っています」 悲しみと苦しみのどん底に突き落とされた松永さん。それでもなお、前を向ける原動力は何か。 「真菜と莉子への“愛情”ですね。彼女たちのことを思うと力が湧いてくるんです。それに、私は真菜のことを人として尊敬していましたから、彼女だったらどう考えるかなと思うと、おのずとやるべきことが見えてくる。今でも彼女は、私の“道しるべ”です」 真菜さんは、友人の誕生日には必ずその日に着くようにお祝いの手紙を送るような心優しい女性だ。 飯塚受刑者と面会を終えた日の夜、松永さんは仏前で、ふたりにこう報告した。 「これからもお父さんは、再発防止活動を続けることで、ふたりの命を生かし続けるからねーー」 しかし、そう報告しながらも、「ふたりに会いたくて会いたくて涙が止まらなかった」。 こんなとき、松永さんの脳裏に浮かぶのは、家族3人で過ごした幸せな日々の情景だ。 「娘の莉子は、家族で手をつなぐのが好きで、食事中でも急に『手をつなぎたい』と。食事をいったんやめて3人で手をつないで笑い合ったこともありました。 ふたりに会いたくても、それは絶対にかなわない。だから私は、再発防止の活動を続けていきます。それがふたりの願いでもあると思うから」 面会の最後、松永さんが飯塚受刑者にお礼を言うと、彼も絞り出すように、「ありがとうございました」と述べたという。 高齢ドライバーの免許自主返納率は、池袋暴走事故が起きた2019年をピークに減少している。 悲劇を繰り返さないために、事故を風化させてはならない。
「女性自身」2024年7月2日号