ファミコン、ラジコン、牛乳瓶のフタのめんこ、シール交換…「昭和ノスタルジック漫画」が読まれるワケ
「昭和の生活には温度がある感じがして、僕は好きでした」
同じく昭和の家族を描いた代表的な漫画に『サザエさん』と『ちびまる子ちゃん』があるが、『しなのんちのいくる』と決定に違うのは主人公の家族構成。『サザエさん』と『ちびまる子ちゃん』が3世代同居の大家族であるのに対し、森下家は両親と子ども2人から成る核家族だ。 「自分の家族がモデルです。両親に3歳上の姉。うちもそうでしたけど、親が共働きで、子どもたちは学校から帰ると家にランドセルを放り投げて遊びに行く毎日で。そういう家庭が多かった気がします。 昭和のあの頃って、国が豊かな暮らしを打ち出していて、国民が揃ってそれを目指していた時代だったと思うんです。夫婦は共に働き、子どもはクリスマスに1万円以下のプレゼントを買ってもらうことを楽しみにしている。あの時代の生活には温度がある感じがして、僕は好きでした」 「温度がある感じ」は『しなのんちのいくる』全体に流れるトーンかもしれない。いくると同級生たちとのやり取りも、ちょっと乱暴でありながら、何気に優しくてどこか温かい。たとえば――。 いくるのクラスにタクという子がいる。タクは意味不明なことを言うし、授業中に鉛筆と消しゴムで遊んでいるし、理由もなく教室のものを突然壊したり同級生の自転車の鍵を盗ったりもする。だからクラスのみんなはあまり接したがらない。でも、いくるとシュウの2人は違う。タクに怒りもするが一緒に遊び、対等につき合う。 「実は、タクを登場させた何作かは、SNSで少し荒れたこともありました。こういうタイプの子を漫画に描くのはどうなのかと。もしかしたら、今の価値観と合わないケースもあるのかもしれません。 いくるとシュウのタクに対する粗削りな優しさとか温かさって、今は少なくなってしまった関係値なのかなという気がするんです。平成の途中から、タクのような子がクラスにいる環境ではなくなっていますし。 きっと、いろんな理由で今はそのほうがいいという時代で、ただ僕らが過ごした時代の考え方が全て間違っていたかというと、僕はそうは思わない。だから、あの話をどうしても入れたかったんです」 仲曽良さんの思いが伝わるといいが……。 「40代というのは、いろいろとやりにくい年代でもあると思います。下の子に気を遣い、上の世代には何も言えない。それもちょっと悔しいので、作品を通して僕ら世代の40代に、『頑張ろうぜ』と密かにメッセージを送っているつもりでもいるんです」