凡人が天才に勝つために必要な「ライバル」の存在。つんく♂が「圧倒的な力の差を見せつけられた」とする大物アーティストとは?
プロデューサーとして大成功、寝る間も惜しんで働いた
2000年ごろ、それまでツアーをガンガンやってきたミスチルに、そこそこ長期間、ライブやリリースのない期間があったんです。 そのころの僕は、モーニング娘。などのプロデュースで、バンドとは違うところでノリまくっている時期でした。 毎週オリコンに僕のプロデュースする数々のグループや歌手の曲をランクインさせて、「やった!1位だ」「3週連続!」「ミリオンいったぞ!」などと、ワーワー盛り上がっていました。 そのころに出したモーニング娘。のアルバムが100万枚に到達して、自分の中でも「よし! よく頑張った!」「こんなこと、そう簡単にまねできないでしょ!」なんて思っていたんです。 毎週曲をつくってレコーディングして、自分たちのライブもやって、ハロー!プロジェクト(モーニング娘。やJuice=Juiceなど、アップフロントグループ系列の芸能事務所に所属するアイドルグループやアーティストの総称)のライブにも立ち会って……。 とにかく忙しく、本当に働き詰めでした。シャ乱Qの曲を含め、年間100曲くらいはリリースしていました。 充実感もあったし、数字的にもかなりの実績を残せていたので、ほかのアーティストと自分を比較する暇がなかったのも事実です。
あっさり300万枚達成に、「神様、そりゃないぜ~」
そんなあるとき、渋谷のレコーディングスタジオのロビーで偶然、ミスチルと再会したんです。しばらく国内外でのんびりリフレッシュしているという噂は音楽仲間を通じて聞いていたんですが、そんな彼らもそろそろ活動を再開するというころだったと思います。 そのときは「久しぶり! 元気? また飲もうよ!」など、ありきたりな立ち話をして別れたんですが……。 それからしばらくして、ミスチルがベストアルバムを出したんです。それが一瞬で300万枚売れました。 一方の僕は、毎週新作のシングル曲をつくって、僕自身もバラエティを含むテレビ番組にも多数出演し、ハロー!プロジェクトたちのプロデュースに神経をすり減らして、寝る間も惜しんで働いて、やっとの思いで100万枚(その後、結果的に200万枚を超えましたが)。 もちろん、これも十分素晴らしい実績です。 でも、彼らは十分なオフをとってリフレッシュして、ふらっと戻ってきて(きっと事実は違うし、忙しくしていたとは思います。当時の僕の勝手な気持ちなのでお許しください)、出した新作なしのベストアルバムが、一瞬で300万枚!!! 正直、「神様、そりゃないぜ~」と思いました(笑)。 「やっぱ桜井くんには勝てないな」 と、忘れていた感覚が蘇りました。 これまでずっと感じていた差。忘れかけていたのに、プロデューサーになって、また実感するなんて……。 「こうなれば、もっともっと曲をつくって、数を積み上げていくしかない。じゃないと、彼らには勝てない! 頑張れ俺!」って、心から思ったのです。 忘れかけていた嫉妬心を思い出させてくれて、ありがとう。Mr.Children! みなさんも、ぜひ、同じ業界、仲間にライバルをつくってください。 できれば、自分よりも常に上にいるような存在がベストです。 ライバルの存在は、時に凹むこともありますが、 ・「負けるな俺」「頑張れ俺」と自分を鼓舞してくれる ・成功しても天狗にならない(「上には上がいる」と思える) と、何かと原動力になってくれるものです。 <Point> ライバル(自分が嫉妬するような人物)の存在を見つけて、パワーの源にする ---------- つんく♂ 1968年10月29日生まれ、大阪府出身。音楽家、TNX株式会社代表取締役。1988年にシャ乱Qを結成、1992年にメジャーデビューし「シングルベッド」「ズルい女」など4曲のミリオンセラーを記録。1997年より日本を代表するヴォーカルユニット「モーニング娘。」のプロデュースを開始し、1999年には「LOVEマシーン」が176万枚以上のセールスを記録。「ハロー!プロジェクト」をはじめ数々のアーティストのプロデュースやサウンドプロデュースを手がけ、現在JASRAC(日本音楽著作権協会)登録楽曲数は2000曲を超える。2015年、喉頭がんにより喉頭全摘手術を受けたことを公表。2020年にメディアプラットフォームnoteにてコラムをスタートする。2021年には坂本龍一氏との共同制作で小児がん治療支援チャリティーライヴのテーマソング「My Hero ~奇跡の唄~」を発表。現在はハワイに拠点を置き、国民的エンターテインメントプロデューサーとして幅広く活躍中。 ----------