橋本環奈主演の朝ドラ『おむすび』 同じオリジナルでも『あまちゃん』と明暗を分けた「震災の描き方」
橋本環奈主演の朝ドラ『おむすび』(NHK)も「神戸編」へ突入。第8週の世帯平均視聴率は、14.1%と前週に比べて若干アップしたものの、「神戸編」に入っても今作への高揚感が高まってこない。 【写真】熱愛発覚の橋本環奈 愛犬だけに見せていた”プライベート素顔” 『おむすび』は平成元年生まれのヒロイン・米田結(橋本)が、どんな時でも自分らしさを大切にする“ギャル魂”を胸に、栄養士としてパワフルに突き進んでいく“平成青春グラフティ”。 すでに国民的女優といわれる橋本環奈を起用したにもかかわらず、なぜかワクワクドキドキしてこない。その理由は、一体なんなのか――。 ◆阪神淡路大震災から30年の節目の年 長丁場の朝ドラでは前作の『虎に翼』をはじめ、『ブギウギ』『らんまん』『エール』など戦前戦後の偉人を取り上げるパターンが、これまで朝ドラの王道といわれてきた。その一方で、オリジナルの現代劇は、苦戦を強いられることが多かった。 「脚本を手掛けた根本ノンジさんも『昨今の朝ドラのオリジナル現代劇は良くも悪くも、いろんな意味で注目される。そのため正直オリジナルドラマを描くことを躊躇した』と前置きした上で、それでも描くべきだと強く思ったのは、オンエア中の’25年、阪神淡路大震災から30年の筋目の年を迎えるからだと、打ち明けています」(制作会社プロデューサー) 特に制作するのがNHK大阪放送局であれば、なおのこと。そういった使命感に燃えて、不利を承知で今作に挑んでいる。しかし向かい風ばかりが吹いているわけではない。 オリジナル現代劇で、震災をテーマにした作品といえば、’13年の上半期に放送され、人気を博した宮藤官九郎脚本の『あまちゃん』がすぐに浮かぶ。 オリジナル現代劇で、真っ正面から東日本大震災を取り上げた『あまちゃん』の成功こそ、脚本家はじめ、スタッフの背中を押したと言っても過言ではあるまい。 その証拠に『おむすび』には、『あまちゃん』へのオマージュというべきシーンが数多く登場している。 「ヒロインの結、アキ(能年玲奈、現在のん) 共に、夢を持たない高校生であること。そして第1話で結が海に飛び込むシーンは、袖が浜の堤防からアキがダイブしたシーンを思い出させ、話題を呼びました。さらにヒロイン結の姉・歩(仲里依紗)が“伝説のギャル”なら、『あまちゃん』でヒロインの母・春子(小泉今日子)は“伝説の不良”と呼ばれていました。また、歩の部屋がギャルグッズ満載の“ギャル部屋”なら、春子の部屋もアイドルグッズ満載の“アイドル部屋”と、共通点をあげたら枚挙の暇がありません」(制作会社ディレクター) だが同じ震災を描いているのに、この2作には決定的な違いがある。 『おむすび』では回想シーンとして阪神淡路大震災を描いているが『あまちゃん』の場合、東日本大震災がヒロインたちの夢や希望の前に大きく立ちはだかる。 「アキの親友・ユイ(橋本愛)は、アイドルを目指して上京する直前に父が倒れてしまい、その失望感から、不良になってしまう。やっとの思いで立ち直り、再び上京しようとした矢先、今度は東日本大震災がユイの上京を阻む。北鉄・畑野駅近くのトンネルで被災したユイが、外に出て見た光景。その景色を見て、ユイはアイドルになる夢も希望もすべて失くしてしまう。このシーンを震災からたった2年後に描いたスタッフの情熱には、今も頭が下がります」(前出・ディレクター) やがて地元の復興のために立ち上がったユイとアキは、ローカルアイドル『潮騒のメモリーズ』を再結成。最終回、お座敷列車での公演を成功させ、希望を胸に震災時に閉じ込められたトンネルに向かって走っていく。この二人の姿は、今も名場面として語り継がれている。 震災による悲劇と復興の象徴となった北鉄・畑野駅のトンネルは、その後も『あまちゃん』ファンの聖地巡礼スポットとして、多くの観光客が訪れている。 ◆何かが違う それに比べて『おむすび』における阪神淡路大震災の描き方は、何かが違う。 糸島フェスティバルで、結はハギャレン(博多ギャル連合)のメンバーとしてパラパラダンスを披露。その姿を見た翔也が、感想を伝える。 「感動した」 「おめ、あんな楽しそうな顔すんだな」 そして、いつも寂しそうな顔をするのはなぜかと聞かれた結は、 「たぶん、あの日から。9年前。1995年1月17日」 と言って口ごもる。 翌第5週。結が翔也に9年前の体験を告白するカタチで、阪神淡路大震災が回想シーンとして描かれる。 「スタッフは避難所で暮らした被災者の生活を綿密に取材。被災した翌日に前を向いた人もいれば、今なお大切な人を失った悲しみに大きく揺さぶられる方もいる。同じ被害を受けても悲しみを簡単に分かち合うことができない。第5週の演出を担当した松木健祐ディレクターは、そんな思いを伝えたかったと打ち明けています」(前出・プロデューサー) 震災を経験していなくても、ドラマだからこそ描けるものがある。ならば、もっと違った震災の描き方があってもよかったのではないか。そう思ってしまうのは、私だけだろうか――。 取材・文:島 右近(放送作家・映像プロデューサー)
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