乗り物酔いする人の特徴とは?乗りもの酔いを防ぐ7カ条と酔い止め薬の使い方|薬剤師が解説
乗り物酔いしやすい人には特徴があり、予防を心がけることで乗り物酔いを防ぐことができます。この記事では乗り物酔いを防ぐ方法や、酔い止め薬の使い方などについて解説します。 【図で見る】乗り物酔いを防ぐ7箇条とは ■乗り物酔いはどうして起こる? 人間には外界に対して、今、自分がどの位置に置かれているのかを認識する「空間識」という働きが備わっています。空間識は主に、視覚、耳の内耳の平衡感覚、筋肉の3つがキャッチした情報が統合されたものです。 乗り物に乗ると、目まぐるしい風景の変化、加速度や振動などの刺激によって、日常の空間識が一時的にずれることで、体にさまざまなストレスがかかります。この空間識のずれによって起こる典型的な症状が乗り物酔いです。 ■乗りもの酔いを引き起こす3つの刺激 乗りもの酔いを引き起こす刺激には、次のようなものがあげられます。 ① 周りの風景がめまぐるしく変わることによる目からの刺激 ② 揺れにより内耳のリンパ液がかき乱されることによる刺激 ③ 振動などによる筋肉や関節からの刺激 これらの刺激は、神経を通じて体のバランス感覚をコントロールする「前庭小脳」と呼ばれる器官へ伝達されます。通常はそこで情報整理がなされ、大脳へ伝わるのですが、前庭小脳がこうした刺激に対応しきれず、混乱をきたすと、自律神経が乱れ、気持ちが悪い、目が回るなどの症状が起こります。 【乗りもの酔いの症状】 ・ 生あくび、生つば ・ 冷や汗 ・ 吐き気や嘔吐 ・ 頭痛 ・ めまい、ふらつき ・ 顔面蒼白 など ■乗り物酔いする人の特徴とは? 一般的に、乗りものに酔いやすい人には、次のような特徴があります。 ■■乗り物酔いに対する不安感が強い 乗りものに酔うかどうかは心理面の影響が非常に大きいといえます。過去に酔った経験を思い出して不安や緊張があると、脳に入ってきた情報を「不快」と判断しやすくなります。それによって自律神経が不安定になり、乗りもの酔いが起こります。 ■■脳が刺激に敏感な子ども 体の平衡感覚を調整する前庭小脳は、4歳から小学生くらいまでの間に発達します。この時期には、刺激に対して脳が敏感に反応するため、酔いやすくなります。その後、揺れを何度も体験すると、前庭小脳が刺激に慣れ、20歳以降になると、自然と乗りもの酔いをしにくくなります。 ただし、乗りもの酔いが与える子どもへのストレスは、精神発達に影響を与えるので、症状がひどいときは、自己判断せず早めに受診しましょう。 ■■体調や体質の影響 体調も乗りもの酔いに影響します。同じ人でも酔うときと酔わないときがあるのは、そのときの体調が異なるからです。体調不良、睡眠不足、空腹、満腹のとき、さらに便秘のときも酔いやすくなります。 また、同じ乗りものに乗っても、酔う人と酔わない人がいます。これは、低血圧やアレルギー、自律神経が弱い、といった体質の違いが影響しています。 ■■外的要因 外的要因としては、初めて経験する揺れには酔いやすいという特徴があり、体を締めつける服装も酔いを助長します。さらに、乗りものの中で本を読んだり、ゲームやスマホの操作をすることも、視覚情報と内耳でとらえる情報のずれを大きくして、酔いにつながります。 その他にも、乗りものの臭い、低気圧、振動、激しい揺れなども、自律神経に影響し、乗りもの酔いの原因となります。 ■■病気による乗りもの酔い 揺れを何度も体験すると、前庭小脳が刺激に慣れ、最終的には酔わなくなっていきます。しかし、20歳を過ぎても乗りもの酔いを繰り返す場合は、何らかの病気が潜んでいる可能性があります。 【乗りもの酔いを引き起こす病気】 ・ 耳の病気……メニエール病、突発性難聴、内耳炎、発作性頭位めまい症 など。 ・ 血圧の病気……低血圧、起立性低血圧(立ちくらみ) など。 ・ 脳の病気……一過性脳虚血発作、脳動脈硬化、脳出血、脳梗塞、脳腫瘍 など。 特に、50歳を過ぎてから突然、乗りもの酔いをするようになった人は、小脳に病気が発症した可能性が高いといえますので、一度検査を受けたほうがよいでしょう。 ■乗りもの酔いを防ぐ7カ条 乗りもの酔いは、複数の要因が重なっておこる症状です。そこで、酔いの誘因をバランスよく取り除き、乗りもの酔いを撃退するための7つの方法をご紹介します。 ① 睡眠を十分にとる……睡眠不足や疲れている時は、自律神経が乱れやすくなるので注意。 ② 暗示をかける……「私は酔わない」と自己暗示をかけましょう。周囲の人も過度な心配や、「酔わないでね」などと忠告をしないように。 ③ 頭を動かさずに進行方向を見る……乗りものの中ではあごを引き、頭を動かさずに、できるだけ窓側に座り、遠くを見るようにする。リクライニングした方がリラックスできる場合は、シートを倒して目を閉じる。 ④ 車内で読書やスマホ、パソコンなどの操作をしない……揺れている状態では文字や画面がちらつき、酔いを助長するのでやめる。 ⑤ お腹を圧迫するような、締め付ける服は避ける。ゆったりとした服装で。 ⑥ 少量のアルコールを飲む……リラックスでき、前庭小脳の興奮が鎮まる。子どもはガムや飴をなめるとよい。 ⑦ 酔い止めの薬をのむ……薬の効き目だけでなく、「薬を飲んだから大丈夫」という安心感が得られる。 ■酔い止め薬の効果的な使い方 乗りもの酔いしやすい人はもちろん、普段はあまり酔う体質ではなくても、慣れない乗りものに乗る時や、ちょっと心配な時は、市販の乗りもの酔い止めを利用しましょう。 薬は、乗りものに乗る1時間から30分前に多めの水(もしくは白湯)で服用してください。事前に薬を服用することで薬の薬効に加え、不安な気持ちも落ち着きます。 また、水なしで飲めるタイプの薬もありますので、外出先で服用するときには便利です。 【酔い止め薬の製品例】 「アネロン・ニスキャップ」(エスエス製薬)、「センパアPro」(大正製薬)、「トラベルミン」(エーザイ) など。 【水なしでのめるタイプ】 「センパアQT」(大正製薬)、「トラベルミンファミリー」(エーザイ)、「パンシロントラベルケア」(ロート製薬) など。 ■車酔いしてから酔い止め薬を飲んでも効くの? 一般的な酔い止め薬は、乗りものに乗る30分前までに飲むことで、安定した効果が発揮されます。もし、薬をのまずに酔ってしまった場合は、その時点で飲んでも構いませんが、酔いを改善する効果がどの程度あるかは、はっきりとは言えません。 ただし、薬理作用の理論上は、多少の効果が期待できると考えられますが、薬は正しい使い方をしてはじめて本来の効果が発揮されるので、やはり乗る30分前までに服用することをおすすめします。 ■まとめ 乗りもの酔いは、「酔うのでは…」という不安感や体調、体質など、さまざまな要因が影響して起こります。とくに酔いに関わる前庭小脳が未発達の小学生くらいまでは、乗りもの酔いをしやすいといえます。 多くの場合、市販の酔い止め薬で症状は改善しますが、大人になっても頻繁に乗りもの酔いをする場合は、病気が潜んでいる恐れもあるため、医療機関の受診をおすすめします。 ライター/小笠原まさひろ(薬剤師)
小笠原まさひろ