3世俳優のプレッシャーは〝過去形〟 「背負ったものがある方が、強い」 寛一郎「プロミスト・ランド」
寛一郎は「プロミスト・ランド」の主役、マタギの礼二郎役を打診された時、一度断ったという。「22、23歳のころ。まだできないんじゃないか、すごくやりたいけど、何かが足りない気がすると」。しかし「だったら撮影までに間に合わせればいい」と返されて「それはその通りだ」と思い直した。「チャレンジしなきゃいけないと思いました」。それから数年後、山形の山中での撮影に臨むことになった。 【写真】インタビューに答える「プロミスト・ランド」の寛一郎
熊狩りに取りつかれた男たち
飯嶋和一の同名小説が原作。1980年代、熊が減りつつあった山村で、環境庁(当時)の通達により熊狩りが禁止される。反発した若いマタギの礼二郎は親方の言いつけに背き、年下の信行と共に熊を求めて山に入っていく。映画の大半で、寛一郎は信行役の杉田雷麟と共に、雪の残る山中を歩き回る。 毎日1時間半かけて撮影地まで行き、急斜面の雪面を歩き、冷たい川を渡った。「山登り自体は好きじゃないんですけど、自分と向き合うことを山が助けてくれると実感できました。携帯電話もつながらない、普段と違う場所にいる感覚で自分を見つめ直す。そこでこそ礼二郎が生きていける。そこはすごく分かったし、共感できた」 里での生活にむなしさを感じている礼二郎は、しゃにむに熊狩りに向かい、イヤイヤ同行した信行も次第に熊を追うことに夢中になっていく。寛一郎は撮影の1年前に、撮影した山形の猟友会の猟師に話を聞き、一緒に山に入ったという。マタギを理解しようと意気込んだ。
山と自分と熊だけ
「自然と人間の共存とか、熊を殺して祈りをささげることの意味とか、どう考えてるのか聞いてみたんですけど『熊撃てりゃいいんだよ』 と。熊狩りに喜びを感じるということでもなく、熊を捕って、祈りをささげてきれいに食べることは染み渡った文化で、そこに理由も意義もない。そういうものなんだなと。でもそこに、本質があるのかと思いました。一緒に山を登って熊を探してる時は、山と自分と熊しか存在しない。背景の社会もなくなって、そういう時間はすてきだなと思いました」 実際に熊を目撃し、獲物の熊を解体する儀式の場面では、猟友会が捕獲した熊を使った。「対岸をのぞいてる時に、歩いている熊を見たんです。興奮しちゃって」と笑う。「熊の内臓は美しいんですよ。匂いもなくて、グロいという表現は一切浮かんでこない。山でそういう精神状態だったからかもしれないけど、本当に神秘的でした」 「プロミスト・ランド」は、自然と人間の結びつきを伝える映画を作る「YOIHI PROJECT」の第2弾。寛一郎は1作目の「せかいのおきく」に続いての出演だ。社会的意義のある作品は、意識的に選んでいるという。「何かを知るために役に立つ、価値のある作品を作っていきたい。映画という文化を残すために役者をやりたい。ちょっときれい事ですけど、そう思ってます」