台湾総統選への「工作活動」に余念がない中国...「あの手この手」6つの手口とその影響は?
<SNSの偽情報、駐在員への圧力、接待旅行は当たり前。投票日が近づけば、工作がより効果的になる理由について>
民主化後8度目の総統選挙を1月13日に控えた台湾は、選挙結果に影響を与えようとする中国の巧妙かつ多様な工作に直面している。 【動画】中国船が垂れ流す人糞が南シナ海の底に堆積──米衛星画像アナリストが警告 呉釗燮(ウー・チャオシエ)外交部長(外相)は1月4日に英経済誌エコノミストとのインタビューで、こうした動きに対する国際的監視を訴えた。今回の総統選における新旧さまざまな世論操作の手口は以下のとおりだ。 ■経済戦争 中国商務省は昨年12月15日、台湾が中国製品に2000以上の「貿易障壁」を設けていると主張し、報復を示唆。総統選を前に農業地帯を支持基盤とする与党・民主進歩党(民進党)に打撃を与えるタイミングを図っているとの疑念が広がった。 さらに同27日、中国当局は民進党が「台湾独立」に固執すれば貿易制裁を発動すると発表。独立は戦争を意味するとの威嚇を繰り返した(蔡英文〔ツァイ・インウェン〕総統は、台湾は既に主権国家であり、改めて独立宣言を出すことはないとしている)。 ■軍事的威嚇 中国の習近平(シー・チンピン)国家主席は新年向けテレビ演説で、台湾との統一は「歴史的必然」だと宣言した。 中国軍は2020年以降、台湾への侵攻や封鎖を想定した演習を付近の海域で何度も実施。台湾海峡の中間線を越えて多数の軍用機と軍艦を送り込み、演習を続けている。 ■接待旅行 台湾の検察当局は、親中政策への支持と引き換えに中国本土での接待旅行に参加した容疑で複数の政党関係者を捜査している。地方の有力者30人以上についても、同様の容疑で事情を聴いた。 ■駐在員への圧力 台湾の英字紙の台北タイムズによると、中国在住のある台湾人ビジネスマンが複数の同胞に対し、野党・国民党に最低330ドルの献金を求めた。氏名などの個人情報の提供も指示したという。 ■デジタル世論工作 「台湾社会は中国にとって世論工作の重要な実験場になっている」と、台湾国防部(国防省)のシンクタンク、国防安全研究院(INDSR)の王占璽(ワン・チャンシー)副研究員は本誌に語った。 コロナ禍で対面での交流が困難になった時期、中国は台湾社会に浸透するデジタル技術に磨きをかけ、旧来の手法と組み合わせるようになった。なかでも懸念されるのは、AI(人工知能)や機械学習を駆使して人物の画像や音声を改変するディープフェイクだ。 野党第2党の民衆党は昨年8月、党創設者で総統候補の柯文哲(コー・ウェンチョー)が、民進党の総裁候補・頼清徳(ライ・チントー)副総統の外遊途中のアメリカ立ち寄りを批判したとされる録音の「粗雑で実にひどい」改ざんについて、捜査当局に文書を提出した。 ■SNSの偽情報 INDSRの王によると、中国はYouTubeやフェイスブック、TikTok(ティックトック)などのソーシャルメディアを活用し、自分たちに有利なメッセージを詰め込んだ動画を大量に流しているという。 台北に拠点を置くNGOダブルシンク・ラボのティム・ニーブンは、台湾への世論工作は「現地の協力者や極端な親中派の声を増幅させる」ものが多いと本誌に語る。 昨年2月にはバイデン米大統領が「台湾の破壊」を図っているとされる偽の発言が、親中派のインフルエンサーや元国民党議員の手でフェイスブック上に拡散された。選挙前の残り数日は、「さらに派手な事件」が起こる可能性があると、ニーブンは言う。 「投票日が近づけば、(こうした工作は)より効果的になる可能性が高い。政府や市民社会が調べて対応する時間が少なくなるからだ」
マイカ・マッカートニー