まさかの「自公過半数割れ」になったときに、石破首相が繰り出す政権維持のための「意外すぎる奥の手」
失望感は下げ止まった…?
新政権は野党との「争点化」の主導権争いに敗れたが、今度は不記載問題で党による処分を受けた前議員らの非公認や比例重複立候補禁止という「劇薬」で逆襲する。一時は不記載候補者も比例重複を認めるとの報道が相次いだため、この「厳格措置」は一種の「サプライズ」となり、改革への一定の本気度を有権者に印象付けた。 例えば、大阪7区で立候補した元職・渡嘉敷奈緒美氏はSNSのX(旧ツイッター)で、ビラ配りの際に人々から「石破さん、思い切ったことやったわね」「石破さん、ほんま偉いわ」と褒めてもらったと発信した。不記載に関係ない自民党候補者にとって「自民党というだけで有権者から批判される。厳しい対応は当然」(中堅議員)というわけだ。 石破総裁誕生後、市場は政府が緊縮財政に走ることを疑い、株価は急落。解散前に衆参予算委員会を開くかどうかや、持論のアジア版NATO(北大西洋条約機構)構想などについても、発言を後退させたとして「変節」批判を受けた。 しかし、処分議員の非公認とその人数拡大、比例名簿外しで「ひとまず失望感が下げ止まった」(与党筋)のが現状である。石破首相は最近「衆院選勝利のためには、とにかく、やるべきことは全てやりつくすしかない」と周囲に語っている。 選挙結果で自民党議席は、仮に解散時より20~30減なら230前後と、まさに単独過半数(233)ラインの攻防となる。公明党は日本維新の会と初めて対決する小選挙区が関西で複数あるなど、解散時の32を守り切れるかどうかが注目点。このため現時点では自公で何とか過半数を確保できるとの見立てが有力だ。
「底なし」もありうる
しかし今後は予断を許さない。主争点は政治資金であり、自民党議席が上振れする余地は限定的だ。逆に下振れすると「底なし」もあり得る。特に選挙中は、政治について普段は興味のない層も関心を持つようになる人が多い。 このため有権者の動向に一方向のベクトルができれば、地滑り的影響を与えることがある。 自民党の「下げ止まり感」とは裏腹に、非公認、もしくは比例重複を禁止された前職議員らの反発は強かった。例えば、党公認を得たが比例名簿に掲載されなかった前職・高鳥修一氏(新潟5区、旧安倍派)はXの自身のアカウントに 「次は惜敗率99・9%でも重複立候補が無いので落選です。比例名簿から安倍派が消える分、惜敗率がもっと下の他派閥候補が繰り上げ当選なので自民党トータルの議席は変わりません。消えるのは安倍派だけ。でもこんなことして比例の自民票は減りますよ」 と投稿した。ある旧安倍派筋は「まるで安政の大獄だ」と評した。衆院選後は「石破下ろし」が始まると予測する報道もあり、獲得議席数によって政権を取り巻く情勢は大きく左右されるのは間違いない。 ただ肝要なのは、党執行部は不記載問題で比例重複を認めなかった30人強の当選に全力を挙げる構えであることだ。「裏金議員」として強い逆風を受ける候補の落選を最小限に抑えないと、政権を失いかねない。「旧安倍派潰し」を地で行けば、自らの首を絞めることになる。 党が直面するのは、比例重複外しという「非情」を行う半面、その候補者を是が非でも小選挙区で当選させねばならぬという強烈なジレンマ。まさしく異例尽くし選挙である。 石破首相は若手時代に政治改革を訴えて自民党を一度離党し、失意の下に復党した経緯がある。離党、復党時の衆院選は計2回、無所属で戦った。また総裁選で石破政権誕生の大きな流れをつくったとされ、俗に言う「キングメーカー」に位置付けられる岸田前首相も、若手の頃、故・加藤紘一元幹事長による「加藤の乱」に参画し血判状まで用意したというが、結果的に鎮圧に終わった経験がある。「岸破政権」の2人とも駆け出し時代、政界の辛酸を痛いほど味わったことがあるのだ。 今回の非公認、比例外しへの中堅・若手らの反発に対し、粛然と「組織の論理」に沿い、諦観にも似た平静さを感じさせるのは、そうした体験に根差していると思わずにいられない。「政界に身を置くこととは、すなわち多くの不条理があることなのだ」と。