液体水素エンジンGRカローラの進化が富士24時間で見えた「水素でレースが楽しめる可能性を示せた」
液体水素ポンプの信頼性はどうだったか?
もうひとつの目標は信頼性の向上だった。とくに液体水素を昇圧してエンジンに送るポンプの信頼性だ。昨年の富士24時間レースでは2回交換した液体水素ポンプを無交換で乗り切るのが目標だった。 これに関してはポンプの耐久性を向上させるために、Dual-Driveと呼ぶクランク機構を導入した。 三好氏は 「これに関しては、目標通り無交換ではあったのですが、ご存知の通り多少停止時間がございました。トラブルによる停止時間は1回目が5時間、2回目が2時間、合計7時間でじつは昨年の計画停止をしていた時間とほぼ同じでした(注:最終的には約9時間)。ですから、無交換は達成できたのですが、液体水素燃料ポンプの24時間連続駆動までは至っていないので、これから評価を続けていきたいと思っています」と語った。 ただし、7時間のピット停止の主原因は液体水素ポンプではなく、ブレーキ系(ABS)のトラブルだったという。液体水素ポンプでも、サーキットを走ると大きなGがかかるため、燃料のタンク内の偏りから起こるパーコレーションに悩まされたことを示唆していた。 結果として、会見後にもトラブルでピットストップの時間があり、トータルの周回数は2023年を超えることができなかったが、液体水素エンジンカローラの技術は着実に進化している印象を強く受けた。 レースの現場で技術開発する意味は、技術だけでなく人材育成にも大きな役割を果たしているという話もあった。 小川氏は、その一例として 「夜中にセンサーのトラブルで一度コースに停まって、その後ゆっくりピットに帰ってきたのですが、その間にうちのエンジンのエンジニアが(マシンが)ピットに帰ってくるまでに、何が起こったかをドライバーからの情報で大体想像して、帰ってくる前に、そのリーダーの下の若いスタッフに『この部品とこの部品を用意しなさい』と指示を出し、それを並べて、何からチェックするのが一番いいか、まずこれを確認しようということをメカニックと共有して作業を効率的に進めていました。それを5分間くらいの間で瞬時に判断している姿を見て、僕は”すごくカッコいいな”と思いました。そのエンジニアの彼は、3年前はまだ右も左もわからない状況だったのです。そういう姿を見られて今回すごく良かったなと思っています」と話してくれた。 高橋プレジデントは 「スーパー耐久は参加型のレースで、OEM(自動車メーカー)は、どちらかというと参加させていただいている立場。本当にプライベーターの方が主役のレースです。そういった方々が将来的にこの水素のクルマを使って、こういう場にクルマに持ち込んでレースを楽しめる可能性を示せたのではないかな、と思っています」と語った。
鈴木慎一