「激辛チップス」で死亡や味覚障害も、意外と知らない辛い食べ物のリスク、”面白半分“でない楽しみ方を
激辛のポテトチップスを食べた東京都の高校生14人が体調不良で救急搬送される騒ぎが7月にあった。高校生の体調は回復したようだが、度を越えた辛さの食品の摂取は命を脅かすこともある。ゲーム感覚で激辛食品を食べる若者は少なくないが、激辛食品は飲酒の一気飲みと同様に大きなリスクがあることを多くの人が認識する必要がある。 【写真】「18禁カレーチップス」への〝警告〟
「危険な辛さ」が人気
救急搬送された高校生が食べたのは「18禁カレーチップス」。製造・販売する磯山商事のサイトによると、このポテチにはブットジョロキアというトウガラシがふんだんに使われており、ポテチの箱には「辛すぎますので、18歳未満の方は食べないでください」などの警告がある。 ブットジョロキアは辛み成分「カプサイシン」を多く含み、辛さの度合いを示すスコヴィル値(SHU)が約100万。これは辛み調味料のタバスコの200倍以上の辛さという。まさに「危険な辛さ」だが、怖いもの知らずの傾向がある若者にはそこが魅力のようで、高校生の救急搬送騒ぎの後、このポテチは通販サイトの食品部門でランキング1位になっていた。同社はポテチの他にも「18禁」のカレーやカップ麺、チョコレートを販売しており人気のようだ。 報道によると、救急搬送された高校生のポテチは生徒が学校に持ち込み、昼休みに33人で回し食べしていた。持ち込んだ生徒は以前食べたときに体調を崩さなかったこともあり、辛い物が好きな友達に食べてもらおうと思ったという。 激辛ポテチでみんなを楽しませようと思ったのだろうが、下手をするとだれかが死んでいた可能性があったことを学校や保護者は生徒に伝えただろうか。
カプサイシン過剰摂取で健康被害
そもそも辛い食べ物のリスクを認識している人はそれほど多くないだろう。筆者自身、激辛のタイ料理を食べた後は必ずおなかを壊すのだが、だからといって激辛料理が他の料理に比べてリスクが高いと思ったことはなかった。 しかし昨年9月、米国で激辛チップスを食べた14歳の少年が死亡した事例があることを知り、考えを改めた。報道によると、少年は激辛チップスを食べた後に腹痛を訴え、意識を失って病院に搬送された後に死亡したという。激辛チップスと死亡の因果関係は明らかになっていないが、少年の父親は少年に持病はなかったとしている。 この少年が食べた激辛チップスには世界で最も辛いトウガラシのキャロライナリーバーが使われていた。キャロライナリーバーのスコヴィル値は160万SHU、日本の高校生が食べたポテチに含まれるトウガラシの1.2倍の辛さだ。 販売していた菓子メーカーは、激辛チップスを食べた後の反応をSNSに投稿するよう呼びかけるマーケティングを行っていた。この成果なのか、米国の若者の間で激辛チップスを食べてその辛さに悶絶する様子を撮影しTikTokでシェアすることが流行していたという。 激辛食品で健康被害が起きるのは、辛み成分のカプサイシンによる。カプサイシンは適量ならば食欲増進や体を温めるなど体にいい効果をもたらすが、過剰摂取すると胃の粘膜を傷付け、胃痛、胃炎、下痢などの症状を引き起こしたり、体の特定部位の血管を狭窄させたりする作用があることが分かっている。 米国のトウガラシの大食い大会で、キャロライナリーバーを食べた男性が激しい頭痛に苦しんだ事例が報告されているが、これはカプサイシンの過剰摂取によって脳につながる血管に狭窄が起きたのが原因とみられている。 カプサイシンによる味覚障害も報告が多い健康被害だ。辛いものを食べると舌が痛くなるが、重症の場合は舌の味蕾がマヒし、味覚障害が引き起こされる。また、カプサイシンに発がん性はないが、がん細胞と戦う免疫細胞の働きを弱めるとされ、がんを誘発する可能性も指摘される。 健康にさまざまな影響を引き起こす激辛食品だが、辛さの度合いの表示義務はない。高校生が食べたポテチは、18歳未満は食べないように警告しているものの、実際に18歳未満が食べた場合に法律に違反するわけではない。激辛であることはちゃんと伝えてあるので、「食べる場合は自己責任でどうぞ」ということなのだろう。