いったいなぜ? ファッションショーで相次ぐスマホ禁止。背景と真意を深堀り
こうした「イン・リアル・ライフ(IRL、現実世界)」のカルチャーを大切にしようとする動きは、ファッションの世界以外でも見られる。ソロ・デビューしたアンドレ3000は2月に行ったライブで、スマホの使用を禁止。会場内で販売したTシャツの背中の部分にも、使用を控えるよう求める言葉をプリントした。
そのほか、ニューヨークのレストラン、「ザ・フロッグ・クラブ」やロンドンのクラブ、「ラッキー・クラウド」なども以前から、店内でのスマホの使用や写真撮影を禁止している。
スマートフォンがない時代の記憶がほとんどないZ世代でさえ、こうした動きに同調しているようにみえる。この世代の間では少し前から、2000年代に人気を集めたデジタルカメラが流行している。
スマホの使用に関するこうした対応には、理解できる部分もある。例えば、人との交流が主な目的の場や、音楽を聴くための場では、「そこに(そのときどきの瞬間に)いる」ことが重要なこと。そのことには、大半の人が同意するだろう。
だが、ファッションは本質的に、それらとは異なる。ショーの会場は、すべての人に開かれた場ではなく、招かれた人たちのための場所となっている。ただ、近年は指摘される“壁”を打ち破り、たとえバーチャルでも、より多くの人たちに関わりを持ってもらうため、スマホを使用しての撮影や映像のシェアが、「まさに必要とされる方法になっていた」ということだろう。
ファッションショーの会場は、すべての人に開かれた場ではない
いっぽう、「ザ・ロウ」がショーの会場内でスマホの使用を認めないことには、また別の意味合いもある。非常に高価で、熱狂的なファン層を抱える「ザ・ロウ」は、SNSで動画が共有されることによって得られる宣伝効果を、ほとんど必要としない。
だがそれは、すべてのブランドに与えられた“ぜいたく”ではない。ますます厳しい状況に直面している独立系デザイナーたちにとって、SNSはライフラインにもなり得る。
そのことは、2022年のショーでベラ・ハディッドに「スプレーをかけ」、ドレスを完成させた「コペルニ」や、2024年のショーでモデルたちのセクシーなポージングが話題を呼んだ「ディラーラ フィンディコグルー」がSNS上で大きな話題となったことからも、よくわかる。