クリエイティブとは何かを教えてくれる──BTSのリーダー・RMのドキュメンタリー映画『RM:Right People, Wrong Place』
世界的なグループ・BTSのリーダーであり、音楽プロデューサーやアートコレクターなど、多才な活躍をみせるキム・ナムジュンことRM。2枚目となるソロアルバム「Right Place, Wrong Person」の制作過程を追ったドキュメンタリー映画『RM:Right People, Wrong Place』が2025年1月3日(金)より公開される。本作は「第29回釜山国際映画祭」で、K-POPドキュメンタリー映画として初めてオープンシネマ部門に招待されたことからも分かるように、単なるアイドルドキュメンタリーではない。世界中のクリエイターとともに作り上げたアルバムからRMの想いを紐解く。 【写真を見る】BTSのリーダー・RMが世界中のトップクリエイターたちと制作したアルバムの制作過程をチェック!
アイドルのドキュメンタリーではなく、ひとりのクリエイターの軌跡
輝かしいグローバル・スターとして活躍するBTSのリーダー、RMのドキュメンタリー映画『RM:Right People, Wrong Place』が韓国で公開され、話題を集めている。2024年5月にリリースされた、彼の2枚目のソロアルバム「Right Place, Wrong Person」の制作過程を、8か月間、密度濃く追い続けた作品だ。 「Right Place, Wrong Person」は、米ローリングストーン誌が選ぶ、2024年の年間ベストアルバムTOP100に選ばれたことからも分かるように、RMの豊かな音楽の引き出しに驚かされた素晴らしいアルバムだったが、本作ではその才能を耳からだけではなく目視できる映像作品となっている。 アルバムのタイトルの意味するところは「その場所に似合わない異邦人」。周りとうまく馴染めず、生きづらい感情を多くの人が抱くが、広く世界的名声を得たRMも、自身にはどこかアウトサイダーな面があると感じ、葛藤してきたことを映画内で語っている。 「僕の人生には、いろいろなことが起こって、(強そうに見えて)そのたびに一喜一憂している自分がいる。昔から人の気持ちに敏感すぎて、言いたいことが言えないところもあります」と明かす。 ■28歳の青年のみずみずしい8ヶ月 デビューして10年余が過ぎた今、ひとつの端境期ともいえるこの時に、今回の映画で正直な気持ちをさらけ出せたのは、幸運な巡りあわせだったといえるのかもしれない。自分の人生に深く潜り込むことで、答えを見い出そうともがく姿には、堂々とグループを率いるリーダーだけではない、ひとりのアーティスト、生身の人間としての正直さ、素朴さ、とまどいが隠すことなく映し出されている。 おそらく人はなぜ生きるのかを考え、何を問い、何を発するべきかを常に考えてきた人なのだろう。発する言葉、生み出す詞のひとつひとつに、感受性の強さ、本質に迫ろうとする、哲学的とも思える才気が見てとれる。15歳から始めたラップ。そしていま30歳となり、葛藤する内面と外面とのズレに、正面から向き合う。 「約10年ぶりに、自分の中で何かが変わった。これを記録しておかねばと思ったんです」 制作には彼の感性に共鳴した、最上のスタッフを迎え入れた。プロデューサー、監督、映像カメラマン、各国からのミュージシャン……。レコーディングの打ち合わせや本番は、真剣勝負であり、互いに意見しあい、高いクオリティを目指していく様子が映し出される。しかし妙な緊張感が走ることなく、むしろ穏やかな雰囲気すら感じさせたのは、すべての表現者が互いにリスペクトしあっている理想的な関係だったからだろう。それもひとえにRMの求心力と、人柄によるものではないか。そしていちばん主体的な立場に居ながら、実に謙虚に周りの意見に耳を傾ける。プロデューサーのサンヤンは言う。 「彼は、いつも迷っているように見えました。その大きな揺れが、僕は面白いと思ったんです。実は当初は、これまでの彼を変えて、こちらのやり方に引き込もうと考えていた。でも、違うと気づいた。彼は自分なりの生き方で生きてきた。『ナムジュンが自分を白紙にして、正直になって、本当に伝えたい言葉は何か』と尋ねました。そしてこうも伝えたんです。『きみにしか話せないことがある、ひたすら正直になってほしい。これからどう始めるかによって、きみの今後が変わってくるだろう、きみそのものが一つのプロジェクトなんだ』と」。 ■最高のクリエイターと作った音楽と映像と写真 参加ミュージシャンは、シリカゲルのキム・ハンジュをはじめ、アメリカのジャズ・デュオ、DOMi & JD BECK、アメリカのシンガーソングライター、モーゼス・サムニー、台湾のバンド、サンセットローラーコースター、イギリスのラッパー、リトル・シムズ……といった面々。まさにオルタナティブなミュージックに溢れた、圧倒的に個性的で美しいアルバムが創り出された。歌詞はすべて自作。それぞれのミュージシャンらとコラボするRMの表情の、なんと自在で楽しそうだったことだろう。 写真家とのコラボも同様だった。日本では、写真家の水島貴大と撮影。クルーは数人でメイクも施さず、友達同士で撮影したかのような実に自然体のキム・ナムジュンが映し出された。また映画監督ウォン・カーウァイの専属スチールカメラマンとして実績を積んだ香港の鬼才、ウィン・シャや、イギリスの写真家・ロージー・マークスとも撮影をした。何事もコンセプトが大切とRMが語るように、一流同士の仕事はスパークする。 アルバム収録曲「Come back to me」のMVでは、Netflixシリーズ『BEEF』の演出を務めたイ・ソンジン監督が演出、制作、脚本を担当し、美術監督は映画『別れる決心』のリュ・ソンヒ。Apple TV+のドラマ『パチンコ』のキム・ミンハも出演している。また「Groin」のMVはPennackyが監督。ロンドンの路上での撮影の様子を本ドキュメンタリーで観ることができる。 アルバムに関わったミュージシャンや映像作家、写真家などは、国籍やジェンダー、年齢、キャリアはバラバラだ。ただひとつ軸となるのは素晴らしいクリエイティビティを持ち合わせたアーティストであるということ。K-POPの世界でだけ生きるのではなく、優れたアーティストの間を自由に行き来できるオープンマインドな感性は、RMの才能だ。 ■RMが過ごしたみずみずしい8ヶ月間を追体験できる クルーと寝食を共にした日々は、合宿生活のようにもみえ、温かな信頼が通い合ってこそ生み出されたものがある。オ・ヒョク(HYUKOH)が言う。 「とても有名だから、プレッシャーを感じていましたが、作業に入ったら、音楽が大好きで文化についても深い関心を持っている。キラキラ輝く少年のような人でした」 この感想がいちばん“素”を表しているように思う。ただただ“創り出すこと”が好きな、繊細さとダイナミックさを併せ持つ人。「ゼロからすべてを作り上げる共同作業をしたのは初めて。アルバムにも映像にも人生が詰まって、溶け込んでいる感じだ」と語ったRM。自身が抱える矛盾や葛藤と向き合った、8か月という時間が、大きな収穫をもたらしたことは想像にかたくない。 BTSとして、ソロ・アーティストとして。これら両輪が影響しあい、響き合いながら、さらに世界へと光と希望を放っていくことだろう。 『RM:Right People, Wrong Place』 2025年1月3日(金)より全国公開 配給:エイベックス・フィルムレーベルズ ©BIGHIT MUSIC & HYBE. All Rights Reserved. https://www.rmrpwp.jp/ 文・水田静子 編集・遠藤加奈(GQ)