性被害“批判”投稿は名誉毀損に当たるか 被告側が会見「被害者の想い継承していきたい」
民事調停成立後に刑事告訴
本件が刑事訴訟に至った経緯は複雑だ。 金子氏と水井さんをめぐるトラブルは、2012年に発生した。金子氏と水井さんが福島での撮影に向かい、当地のラブホテルで「同意のない」(水井さん側の主張)性行為に及んだ。水井さんと所属事務所は、金子氏に対して民事訴訟を起こしたが、証拠不十分で敗訴。警察への被害届も提出したが、刑事事件としても不起訴となっていた。 吉田氏は、その当時、水井さんがX上に金子氏の裸の写真と共に金子氏が性犯罪者だと告発する内容の投稿をしていたのを見たという。吉田氏は金子氏とは10年来の知人で、共著も3冊出している間柄だったので、本人に直接事情を聴いたところ「事実無根」と答えたそうだ。 金子氏は、生前の水井さんに対し前記投稿の削除を求める民事訴訟を3回起こしていたという。昨年、水井さんの遺族との和解交渉が成立し、水井さんの投稿は削除された。 さらに金子氏は、吉田氏の投稿に対しても、刑事告訴と同時に民事訴訟を提起。80万円の損害賠償を求めたが、民事調停に付され調停が成立した。 刑事事件としての起訴理由は公開されていないが、刑事告訴を受理した検察から吉田氏は、「民事調停の推移を見て起訴するかどうか判断する」と言われていたといい、調停成立後も吉田氏が当該投稿を削除しなかったことなどから、公判請求に至ったと見られている。 32歳の若さで亡くなった水井さんは、生前、性犯罪をテーマにした映画も制作するなど意欲的に活動していた。裁判期日後の会見で吉田氏は「映画に関わる人間として(水井さんの想いを)継承していきたい」とし、本訴訟を戦う決意をみせた。
性犯罪の立証困難性と名誉毀損をめぐる事案増加するか
本件の背景には、性犯罪を立証する困難と推定無罪の原則がある。 2023年には不同意性交罪・不同意わいせつ罪(改正)が施行され、被害者が同意しない意思を形成か表明、または意思の表明を困難な状態にさせた状態での性交は犯罪と規定された。しかし、性犯罪の多くは密室で発生することが多く客観的な証拠が残りにくい。同時に、犯罪が立証されていないうちから、加害者とされる人物を「加害者である」と断定することは名誉毀損に当たる可能性もある。 本件は性犯罪の有無を問うものではなく、名誉毀損かどうかを争うものだが、芸能人をめぐる事件でも類似の訴訟が起きたように、性犯罪の立証困難性と名誉毀損をめぐる事案は、今後も増えていくことが予想される。 ■杉本穂高 日本映画学校(現・日本映画大学)出身。神奈川県のミニシアター「アミューあつぎ映画.comシネマ(現・あつぎのえいがかんkiki)」の元支配人、現在は映画ライター。
杉本穂高