【ネタバレ注意】『時間の虹』読後のあなたと語りたい、著者に聞くアフタートーク 「紅雲町珈琲屋こよみ」シリーズ・一区切り記念インタビュー(後編)
シリーズ累計80万部を突破している「紅雲町珈琲屋こよみ」シリーズ。このほど発売された『時間(とき)の虹』は、第12弾にしてなんと「結び」の一作となりました。 【写真】この記事の写真を見る(6枚) あまりに衝撃の展開に、編集担当・文庫担当・デザイナーは騒然。なぜ、こんなことが起きたのか? 著者の吉永さんは、いつからこんなことを考えていたのか? 本書をお読みくださった方に送りたい、本音のアフタートークです。全2回の後編です。( 前編はこちら ) ※未読の方は先に本書をお読みください。 ★『時間の虹』あらすじ 小蔵屋、まさかの閉店。 静かな時間が流れる、いつもの小蔵屋。 オーナーシェフだったバクサンが引退し、お祝いをするお草だが、心には一抹の不安が。 一つ、不審な間違い電話が相次いでいる。 もう一つ、久実の婚約者・一ノ瀬が8ヵ月以上も店に顔を出さないのだ――。 小蔵屋に、何が起こっているのか? 止まっていた時間が、動き出す。 詳しくはこちらから。 https://books.bunshun.jp/sp/osou ◆◆◆ ――前作『雨だれの標本』で、やっと一ノ瀬が久実ちゃんにプロポーズしたことで、デザイナーさんはずっと「次回の表紙は二人の結婚式だ」と楽しみにしていたそうなのですが……ふたを開けたら、まさかの破局。皆、かなり驚いていました。 吉永 申し訳ないです(笑)。あの二人、出会いからずっと波乱万丈ですからね。 ――吉永さんとしては、この破局は見越したものだったんですか? 吉永 そうですね。あのまま結ばれるんじゃなく、結婚前にいろいろある方がいいんじゃないかと……。その前振りのつもりで、梅園管理者の齋藤睦(むっちゃん)が、好きな人とは結婚できなくて、でもずっと好きなままだ、というエピソードを入れたんですよ。
――いろいろあったことで、久実ちゃんにいい意味で影が出来たというか、人としての厚みを感じるようになりました。 吉永 久実は、家族に大事にされて育ってきて、ずっと「守られる側」だったんですよね。離れている7年の間に、子供を持つことで、はじめて「守る側」になって、やっと一人で立つことを学んでいったというか……あの状態のまま、一ノ瀬と結婚してもうまくいかなくなったんじゃないでしょうか。 それは一ノ瀬も同じで、彼もやっぱり山を諦めるといって諦めきれない。人に自分の感情を話すのが苦手で、「謎男」だったところから、10年ほど会社で働いて、社会的なつながりを学んでいた。 そうやって、お互いがそれぞれの人生を歩んだうえで、やっぱり二人でいないとダメだ、ってならないと、本当のハッピーエンドとは言えないんじゃないかと思ったんです。 ――7年の間、久実ちゃんが犬丸と結婚生活を送っていたのも驚きですが、一ノ瀬がずっと久実ちゃんのことを引きずっているのも意外でした。 吉永 別れた当初は一人になってほっとしてしまう自分もいたと思うんですよ。でも、一ノ瀬は、家庭の温かみを知らずに育ってきたでしょう。知らず知らずのうちに、久実がもっている「普通の家庭の温かさ」みたいなものに触れてしまって、それがなくなったというのはすごくつらいことだったのではないでしょうか。 別れたあとも無意識のうちに、考え方がどこか久実を基準にしてしまっているというか、彼女が心身にしみ込んでいるんですよね。だから再会して、心と体が久実から離れていないということを一気に自覚してしまう。 ――一ノ瀬が、久実ちゃんとの時間を真空パックされたかのようになんでも思い出してしまうところが、切なくもあり、希望でもありました。もう一人のまさかの登場人物が、犬丸さん。前作で役人でありフィルムコミッションの担当者として現れましたが、まさか今作にも登場するとは思いませんでした。