594球の裏にあった葛藤…近江エース山田陽翔の決勝戦先発は回避すべきだったのか…「先発は間違いだった」と監督“懺悔”
山田は、1回戦から4試合連続完投。前日、浦和学院との準決勝では5回の打席で左くるぶし付近に死球を受け、もんどり打って倒れながらも「行かせてください」と訴え、以後は足を引きずりながら延長11回、170球を投げ抜いていた。 サヨナラの劇的勝利後、多賀監督は「山田は凄い男。きょうほどそう感じたことはなかった。途中、このまま投げさせていいものかと思ったが、私が決断しないといけない。明日のことなんか考えなくて、この一戦にかけようと覚悟を決めた」と、お立ち台で涙を流し、言葉を詰まらせていた。 球数制限から言えば、決勝では116球を投げることが可能だったが、先発を回避するのではないか、との見方があった。 山田の健康管理優先か、それとも心意気を買うのか。どちらを取るかの判断に指揮官の葛藤はあった。 山田は大阪桐蔭を撃破してベスト4入りした昨夏の甲子園大会後に右肘を痛めて秋季大会では登板を自重しており、今大会は復帰登板だった。 大会への準備も万全だったとは言いがたかった。開幕直前の17日に選手の新型コロナウイルス感染により出場を辞退した京都国際に代わって補欠校として急きょの代替出場。宿舎を確保することができず、20日の試合には彦根市からバスで甲子園へ。山田は名神高速の草津パーキングエリアで合流しピックアップしてもらっていたほど。プロのスカウトがドラフト候補として注目している逸材を壊さないためにも先発回避すべき条件は揃っていた。 だが、主将でもある山田は、その責任感から決勝のマウンドに立つことを多賀監督に強く訴えた。ここまで京都国際の無念さを自分たちの力に変えて戦い、劇的な勝利で快進撃を続けた。滋賀県勢として初めて決勝の舞台へ駒を進めることになったが、自分たちだけでの戦いではないとの使命感もあった。 苦悩の末、多賀監督が下した決断は、山田の気持ちを汲み取っての先発起用だったが、その代償は大きかったということになる。