仕込み? リアル? 恋愛リアリティーショーと孤島ミステリを掛け合わせた、恋と芝居と殺意の物語(レビュー)
無人島を舞台とした恋愛リアリティーショー番組の撮影中、連続殺人事件が起きたら? 双葉文庫ルーキー大賞を受賞した気鋭・中村あき氏の最新刊『好きです、死んでください』は、「恋愛」と「殺人」という二つのテーマが絡み合う本格ミステリだ。リアリティーショーという設定を活かした登場人物たちの心理戦、無人島というクローズドサークルで起きる惨劇、そして緻密にはりめぐらされた伏線が一気に回収されるラストの快感など、ミステリ好きにはたまらない1冊。 「小説推理」2023年11月号に掲載された書評家・大矢博子さんのレビューで『好きです、死んでください』の読みどころをご紹介します。 ***
■どこまでが仕込みでどこからがリアル? 恋愛リアリティーショーと孤島ミステリを掛け合わせた、恋と芝居と殺意の物語。驚きの結末を見届けよ!
無人島のコテージで恋愛リアリティーショーの撮影が始まった。俳優やグラビアアイドル、モデルなど6人の男女の恋の行方を追うこの番組になぜかキャスティングされてしまったミステリ作家の小口栞は、場違い感に戸惑いながらもせめて名を売ろうと頑張って他のメンバーと交流する。 場を引っ張るのは人気女優の松浦花火。早くも恋の鞘当てが始まる中、思いがけない事件が起きた──。 と思わせぶりに書いたところで、無人島というだけで誰かが死ぬんだろう、本土と連絡がとれなくなるんだろうというのはミステリファンなら予想がつくだろう。はい、その通り。恋愛リアリティーショー×孤島ミステリである。 殺されたのは一番人気の松浦花火。島にいるのは他の5人の出演者と、プロデューサー、カメラマン、ADの3人だけ。他のスタッフは第2陣として渡航予定だったが悪天候で遅れている上、電源が壊され通信手段も失った。犯人はこの中にいる──? しかし皆の警戒を嘲笑うかのように第2の事件が……。 いわゆる孤島ミステリの中で本書の面白さは、これらが撮影中の出来事であるということだ。各所に定点カメラがあり、それで一部の動向やアリバイが担保される。さらにこれこそ本書の最大の特徴だと思うのだが、そもそもが作り事のショーであり、殺人も推理ドラマとして予定されていたという点。そこにミステリ作家が探偵役として入ることで、何重ものメタ推理が味わえるようになっている。 いやあ、巧い! 撮影という特殊な環境を上手く謎解きに取り入れ、数々の細やかな伏線がひとつに結集する見事さたるや! 表の顔があれば裏の顔もある。駆け引きもあれば信頼もある。そして恋愛リアリティーショーという設定だからこそ生まれる彼らの感情の交錯が大きな目眩しになっているあたりも秀逸。いかにも伏線らしい箇所が複数あるが、その使い方も意外性に富んでいて「そう来るか!」と唸った。 だが本書の真のテーマはその先だ。なぜ著者はわざわざ孤島ミステリの設定に恋愛リアリティーショーを選んだのかがポイント。撮影ということならドラマでも何でもよかったはずだ。だがこれは恋愛リアリティーショーでなければならなかった。その理由が最後にわかる。 果たして真犯人は誰なのか。読み終わった時、誰もがそれを自分に問いかけるはずだ。ミステリの仕掛けと物語のテーマ性が見事に融合した一作である。 [レビュアー]大矢博子(書評家) 1964年大分県生まれ。書評家。名古屋在住。雑誌・新聞への書評や文庫解説などを多く執筆。著書に『読み出したら止まらない! 女子ミステリーマストリード100』『歴史・時代小説 縦横無尽の読みくらべガイド』などがある。 協力:双葉社 小説推理 Book Bang編集部 新潮社
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