叫んだらやり直しなホラゲー『DON'T SCREAM』に見る、ゲーム実況との“意外なシナジー”
インディーゲームを開発しているJoure&Joeによるゲーム『DON'T SCREAM』が、10月28日よりSteamストアにて販売されている。 【画像】まるで実写? モキュメンタリー風で超リアルな『DON'T SCREAM』のプレイ画面 早期リリースという形で発売された今作、インディーゲームとして注目を浴びつつあり、さまざまなゲーム実況者・配信者がプレイしている。 ゲーム内容はいたってシンプル。不気味な森にスポーンされた自プレイヤーキャラを操作し、18分のあいだ周囲を探索するのみだ。また、移動することで時間が経過する仕様になっているため、なにもせずに18分間をやり過ごすことはできない。 本作最大の特徴として、プレイ中はマイク接続が必須となっていることが挙げられる。『DON'T SCREAM』というタイトルの通り、声をあげて叫んでしまったらゲームオーバーとなってしまうのだ。ゲーム開始前にはマイク音量の設定をおこなうチュートリアルが設けられており、ゲームがスタートすると、闇が深まる森のなかで風のさざめきや動物が駆けていく音など、さまざまな物音やギミックがプレイヤーを驚かせてくる。 通常、ゲーム実況といえばプレイ中のリアクションも醍醐味のひとつ。だが『DON'T SCREAM』では普段遊んでいるときと同じようなノリで声を上げてしまうと即ゲームオーバー、最初の地点からのリスタートを余儀なくされる。 実際にプレイしてみると、ライトで手前を映し出しているだけの1人称視点、彩度や明度が落ちた古いビデオカメラで撮影しているような映像、風に揺れる草や木々の動き、たまにはいるテープノイズなど、1980~90年代らしい質感が随所に現れている。 実際に撮影した映像を使ってゲームを制作したのか? と思わされるほどのリアリティがあるが、本作は『Unreal Engine 5』を使って制作されたとのこと。 こういった作品に用いられる、フィクションをドキュメンタリー映像のように見せかけて演出する表現手法は「モキュメンタリー」と呼ばれ、「撮影者が行方不明/殺害されたために発見されていなかった映像」「発見された未編集映像」というストーリーは「ファウンド・フッテージ」と称されることもある。 ハロウィン直前の10月28日に公開されたという点に加えて、カメラ映像を1人称で撮影した「ファウンド・フッテージ」作品の傑作映画『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』、音を鳴らすと怪物が襲ってくる『クワイエット・プレイス 破られた沈黙』といった著名なホラー映画からの影響が、本作の内容からは垣間見える。 あきらかに人間ではない異形の存在からの襲撃や鮮血、残虐シーンが連続するのではなく、「なにかが次の瞬間に起こるはずだ」という緊張/緊迫感がコアとなって仕上がっているのは、それだけで趣深さを感じられる。 先にも述べたが、『DON'T SCREAM』はまだ早期リリースされたばかりのタイトルであり、今後製品版としてリリースされた際にどのような内容に仕上がるかは注目すべきだ。 ■「ゲーム実況なのにしゃべってはいけない」という“理不尽”が生むユニークさ 『DON'T SCREAM』というタイトル通り、「声をあげて叫んでしまったらゲームオーバー」というのが本作のミソだ。ゲーマーの多くがマイクを所持しているというと言い過ぎかもしれないが、たしかに昨今のゲーマーの間ではボイスチャットの普及率が非常に高い。その点をしっかりを見定めて、作品コンセプトに組み込んでいることが何よりも重要だ。 「ゲームをしていて声を上げてはいけない」というのは、ゲーマーにとってはすこし難しいはず。何より「ゲーム配信にはまったく向かない内容」という点が、配信者やストリーマーにとってはむしろ挑戦状かネタ振りかのように読めてしまうだろう。 発売された10月28日には、ガッチマン、兄者弟者、レトルト、ポッキー、しゅうゲーム、加藤純一などゲーム実況者たちがこぞってプレイ。VTuberでもにじさんじ・壱百満天原サロメとましろの2人が早々とプレイし、注目度の高さを伺わせていた。その後もさまざまな配信者らがプレイしており、YouTube/Twitchともに多くのプレイ動画を見つけることができる。 配信や動画に綺麗にプレイ内容を収めようと、ゲームをまともにプレイすると、まったくの無言かささやき声でプレイせざるを得ない。設定がうまくいかないとリスナーへの説明やコメントとの会話だけでアウト判定になってしまう。そのためか「ASMRのようなホラーゲーム配信」とコメントされることもある。 さまざまな驚かし要素、ギミックを駆使してプレイヤーを恐怖に陥れる本作。見事にどん底にたたき落とされた配信者のひとりが、にじさんじ所属のバーチャルタレント、フレン・E・ルスタリオである。スタートした直前から「待って、すでに怖いんだけど」と言い始め、風のさざめきや遠くからの声を聞いただけでビクリと反応してしまうほど。 普段の配信ではハツラツとした言動でリスナーを笑わせてくれる彼女だが、この配信ではささやき声メイン、声を押し殺しながらゲームをすすめ、漏れる息もか細いものに。「ホラーゲームを怖がりながら進める」という、まさに典型的かつギャップも相まってのおもしろい配信となった。 では、フレンとは逆にホラーゲームに高い耐性をもつ者が『DON'T SCREAM』をやってみるとどうなるだろうか。おなじくにじさんじ所属で、指折りの“ホラゲ強者”である空星きらめは、まさに強者らしいプレイをみせた。 本作はプレイヤーが怖がったりして足を止めると進行の時間が止まるわけだが、彼女の場合は一切止まることなく歩き続け、さまざまな驚かしギミックにもほとんど反応すること無く、普段のようにリスナーと小ボケを挟みながら雑談を続けるという強心臓ぶりをみせてくれた。 驚かしポイントに出くわすと「まぁそういうなるよね、わかってた」とキッパリ言い切り、「うわぁーこわーい!」と棒読みで声を上げ、雑談中に訪れたギミックに対して「いまきらめが話しだそうとしてたのに驚かしに来るなよ。空気読めよ」とバッサリ。 加えて「このゲームさ……」とゲームに対して思うところをポツポツと話し、配信中盤からはゲーム内のマップを自由に探索しはじめるほど。空星きらめを「ホラゲ強者」たらしめるゆえんが際立つ内容になっている。 ホラゲ耐性の高さから配信の内容がゲーム攻略の方向へと向かっていくという点では、壱百満天原サロメもそのひとりだ。彼女がデビュー当初に大ブレイクしたきっかけとなったのが『バイオハザード7 レジデント イービル』だったことからもわかる通り、多少はホラーゲームに慣れていることは証明済み。 くわえて、彼女はやりこみ要素があるゲームに関してはしっかりとプレイしようとするタイプであり、多くの人が1回きりの配信で終わっているなかで、「未探索箇所の探索」と称して2度目の配信をするほどだ。 サロメといえばハイトーンな声とハイテンションなお嬢様口調を思い出すファンが多いかもしれないが、じつは深夜の遅い時間ではローテンションかつボソボソとした口調でゲーム配信をすることがある。 そういった配信で聴ける彼女の繊細かつしっとりとした声色を、相性抜群のホラーゲームとともに楽しめる。壱百満天原サロメのファンであれば要チェックな配信ではないだろうか。 ■予想のつかない展開が魅力 操作役と指示役でわかれてプレイする配信者たち 操作する側と、指示する側で役割を分けるという縛りを設けてプレイした配信者たちもいる。いわゆる“二人羽織”のような方式だが、ホラーゲームをこの二人羽織方式でプレイすると、怖さを相手に押し付ける/押し付けられるという格好になるため、お互いに起こるかが予想がつかないのだ。 そんな二人羽織方式で『DON'T SCREAM』でやってみるとどうなるか? これに挑戦したのが、ジャック・オ・蘭たんとすぎるのふたりだ。 すぎるがゲームを操作し、ジャック・オ・蘭たんが叫んだらやり直しという形でスタートした同配信。「そこ行ってみ?」「角に気をつけて?」など細かい指示出しをして進めていくが、ちょっとしたことでビックリする蘭たんをみて、すぎるが「ムリだこれ」「やめる? これ」と呆れてしまうという構図で進んでいく。 その後も唐突な脅かしに素直に驚く蘭たんに、隣でゲーム進行していくすぎる。仲良し2人ということで会話もはずみ、そもそも会話しているだけで死ぬことが何度もあるほど。「2人でプレイしている」という和やかなムードと、ちょっとしたことにも敏感に反応/驚いてしまう落差。こういった楽しみ方もできると示してくれる動画だ。 もちろん他にも多数の配信者やストリーマーがプレイしている。「叫ばない」というルールを忘れて思いっきり叫んでビビってしまう人もいれば、口を食いしばって声を押し殺した結果、あわや大惨事にあってしまったVTuberもいる。興味があれば、十人十色のリアクションを見せてくれる配信者たちのプレイングを楽しんでみてほしい。
文=草野虹