数十万トンもある「船」、なぜ海に浮かぶのか? 意外と知らない謎に迫る
船とアルキメデスの原理
船は海を通って人や物を港から港へ運ぶ、私たちの生活や経済活動に欠かせない輸送手段だ。何百t、時には数十万tにもなる巨大な船が海に浮かんでいるのを見て、鉄や鋼で作られているのにどうして沈まないのか不思議に思う人も多いだろう。 【画像】「なんとぉぉぉぉ!」 これが大手海運の「平均年収」です! グラフで見る(9枚) その秘密は物理学の基本法則にあり、船が浮かぶ仕組みを理解するには、 ・アルキメデスの原理 ・船の構造に隠された工夫 を知ることが大切だ。 船が浮かぶ理由を説明する上で避けて通れないのが、アルキメデスの原理だ。この原理は古代ギリシャの数学者アルキメデスによって発見され、次のように定義されている。 「液体に浮かんでいる物体には、その物体が押しのけている液体の重量が及ぼす重力と同じ大きさの浮力が働く」 簡単にいうと、物体が水に入ると、その体積分だけ水を押しのける。その押しのけられた水の重さが物体に働く浮力となる。もしこの浮力が物体の重さと同じかそれ以上であれば、物体は浮く。しかし、浮力が物体の重さより小さいと、物体は沈んでしまう。 アルキメデスの原理は、浮力をF、液体の密度をρ(ロー)、液体中の物体の体積をV、重力加速度をgとして、 「F = ρVg」 という式で表すことができる。この力を利用して船は海に浮かんでいるのだ。
船が浮かぶ具体的な仕組み
理解を深めるため、次の五つのポイントを説明する。 1.船体の形状と浮力の関係 2.排水量の役割 3.重心位置 4.復原性 5.喫水の制限 船が浮かぶためには、船体の形状が重要だ。鉄は水より密度が大きいため、そのままでは沈んでしまう。そのため、船体は大きな空間を持つ構造になっており、この空間によって押しのけた水の密度を低くして浮力を得る。 船が水に浮かぶとき、船体はその重さと同じ量の水を押しのけ、その押しのけた水の重さで浮力が決まる。この押しのけた水の量を「排水量」という。例えば、大型貨物船では数万tの貨物を積むことができ、その重さを支えるだけの浮力が船体設計によって確保されている。 浮力だけでなく、船の重心の位置も安定性に大きな影響を与える。重心が高すぎると、波や風で転覆するリスクが高くなる。そのため、船体内部にバラスト水(安定のための重りとなる水)を配置し、重心を低く保つ工夫がされている。 船の揺れに大きく関わるのが復原性だ。「復原性」は、船が傾いたときに元の姿勢に戻ろうとする力を指す。船の重心位置とメタセンターと呼ばれる浮心を通る鉛直線が船体中心線と交わる点との距離によって決まる。重心が低いと復原性が増して、揺れによる転覆リスクを減らせるが、揺れの周期が短くなるため乗り心地が悪くなる。一方、重心が高いと揺れの周期が長くなるが、安定性が低くなるため、適切な重心位置が求められる。 船の底から水面までの高さを「喫水」という。喫水が高いほど排水量が増え、多くの貨物や人を乗せることができる。しかし、喫水が高すぎると甲板までの距離が短くなり、波を受けやすくなったり、水が船内に入りやすくなったりする。また、水面から浮かんでいる部分の浮力(予備浮力)が小さくなるため、甲板までの適切な高さが必要とされる。さらに、港に入る際に船底が海底に当たらないように、各港では喫水制限が設けられ、航路に応じて喫水が決められることが多い。