【アンティーク時計入門・第4回】オメガ英陸軍向けなど40年代までの秒針はスモールセコンド型が主流だったのはなぜ?
1分間で1回転する秒針。いまではセンターセコンド(中三針)と言って時分針と同じく文字盤の中央にセットされているのが一般的だが、1940年代より以前は中央ではなく、そのほとんどは6時位置の小さな円の中に独立して配置されるスモールセコンドと呼ばれるタイプだった。 【画像】1940年代のイギリス陸軍と空軍向けの秒針の違いを比較 理由は単純で、昔の手巻き機械式ムーヴメントに設定されている四つの歯車には1分間に1回転する4番車という歯車があって、それに針を付けるだけで秒表示を設けることができたからだ。ちなみに文字盤中央に設定されている歯車の2番車は1時間に1回転するため分針が付く。 当時にもし秒針を分針と同じ中央位置に設置するには歯車をもうひとつ加えて(出車式またはインダイレクト方式と呼ぶ)4番車の回転運動を中央に伝える技術が必要となる。そのため40年代までは手軽に設置できるスモールセコンドタイプが主流となっていたというわけだ。 上に掲載した時計は1940年代に製造されたイギリス陸軍用の軍用時計である。スイスの名だたる時計メーカー12社(オメガ、IWC、ジャガー・ルクルト、ロンジンなど)が、軍規定のスペックシートに基づいて製造したW.W.W.こと通称ダーティ・ダース、そのオメガ版だ。 本来軍用であれば視認性的にはセンターセコンドのほうが見やすいはずなのだが、陸軍向けの規定ではスモールセコンドムーヴメントが指定されていたためメーカーが違えどもダーティ・ダースはすべてスモールセコンド仕様となっていたのである。 対して同時期にイギリス空軍向けとして支給された軍用時計はセンターセコンドタイプだった。つまりセンターセコンドができなかったわけではないが、陸軍向けは12社ものメーカーが製造を担当しなければ賄えきれないほど製造数が多かったことから生産性を優先してスモールセコンドが採用されたのではないかと言われている。 なお、センターセコンド仕様として設計されたムーヴメントが主流となるのは60年代になってからである。 文◎LowBEAT編集部
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