粗品が語る「アンチ現代音楽」の真意、初アルバムに込めた2つの大義
、僕は「死にたい」って言葉にめっちゃ敏感なんです
─先ほど「救いたい」とか「偉いって言ってもらわれてなさすぎる」という話がありましたけど、「オーディンの騎行」「絶対大丈夫の歌」でも悩みを抱えている人に対して温かい言葉を送っていますよね。粗品さんが歌う先には、どんな人が見えているんですか。 粗品:僕、ファンの人とかなりコミュニケーションを取ってる方なんですよ。DMもそうですけど、スーパーチャットで太客と投げ銭芸をやっている中で、顔も見たことないし名前も知らない人の身の上話をよく聞くんです。そういう人たちのことを思い浮かべますね。だから「日本中にそういう人がいっぱいおるんやろうな」とか、自分より不幸な人も死ぬほどおる。あと、僕は虫を見たら反射的に叫んでしまうんですよ。嫌い過ぎて「うわー!」って。そういうリアルな体の拒絶反応と一緒で、僕は「死にたい」って言葉にめっちゃ敏感なんです。どんな人でも「死にたい」とか「今から死にます」って言われると、いても立ってもいられなくなる性分なんですね。どうでもいいって思えなくなるんですよ。「“死にたい”ってこいつが言ってるのを知ってもうたしな」みたいな。そういう人のことを思って、できるだけ優しい言葉でとか、そういう曲が増えているんやと思います。 ─でも今って「死にたい」って言葉を見る場面が多い気がするんですよね。僕なんかはX(Twitter)で「死にたい」ってポストしているのを見ても、「まあ、そうは言ってるけど」と思っちゃうんです。 粗品:うんうん、そうっすよね。手軽に書き込めますしね。 ─粗品さんが過敏に反応を示すのってどうして? 粗品:たとえ1%でも、ほんまに死んだらどうしようって思ってるからですね。「死ぬ気ないやろな、こいつ」とか分かるし、冷やかしで「粗品からレスをもらいたくて『死にたいです』と言ってみよう」という奴も山ほどいると思うんです。そうやとしても、優しくしたいなって。そういう人にも自分が優しくしない理由ないかなって、そういうマインドで全部動いてますね。 ─実際、「宙ぶらりん」「サルバトルサーガ」のYouTubeのコメント欄を見ると「救われた」という書き込みが本当に多いですよね。 粗品:うんうん、「サルバトルサーガ」とか確かにそうでしたね。僕もこんなに届くんかって嬉しかったですね。真っ直ぐというか、あまり飾らない言葉で作詞したのが、いい方に皆さん受け取っていただいて本当によかったです。めっちゃよかった。 ─一方で「宙ぶらりん」や「風炎デージー」は特にそうなんですけど、みんなと一緒にいるよりかは主人公が1人ぼっちな感じがしたんですよね。それは粗品さんご自身の心境が投影されているのかなって。 粗品:まさに「宙ぶらりん」は自分過ぎる曲で、僕はずっと1人やったし、誰にも理解されへんけど自分が一番と思ってる奴で。「風炎デージー」も1人なんですけど、僕というよりも誰を救いたいのかっていうと、やっぱり友達がおらん奴とか、充実していない奴なんです。しんどい奴に届けたいなと思ったら、自ずと孤立してるような奴を想像して書いた曲になりましたね。 ─そこに目が行くのが不思議なんですよね。粗品さん自身はマジョリティの中で天下を取った人じゃないですか。それでもマイノリティの人達にも意識が向いてるのは素晴らしいと思う反面、その視点を持てているのはどうしてなのかなと。 粗品:我ながらバランス感覚のセンスはあると思いますね。もともとマイノリティ出身で「マジョリティもできますけど。余裕ですよ」っていうスタイルなんで、どっちの気持ちも分かるし、「この時はこっちにいた方が得やな」っていうのはセンスで分かっちゃいますね。それはちょっと生まれ持ったものだと思います。 ─子供の頃からそのセンスがあった? 粗品:いや、どうなんですかね。子供の頃は偏っていて、まあ具体的に言うと中学まではマジョリティで高校からはマイノリティな感覚が自分の中であるんですけど、どっちも経験して社会人になってから、バランスを取るのがうまくなっていった感じですね。 ──ロックってどこか閉鎖的なものだと思うんですよね。「お前はそのままでいいとか」「あいつらに従う必要はない」とか、反体制的なロックの世界に没入すると自ずとマジョリティの奥深くへ潜ってしまう。 粗品:そうですね。でもね、僕がいる場所はマジョリティに入らんと売れないんで。王道を行ってる奴がマイノリティもしてあげる、という救い方がいいと思うんですよね。 ──ちょっと前の情報になるんですけど、去年12月「SCHOOL OF LOCK!」に出演されたのをお聴きしまして。 粗品:ありがとうございます。めっちゃチェックしてくれてますね。 ─とあるリスナーが「自信を持つにはどうしたらいいか?」と質問をしたら、「まだ結果が出ていない時に自信出すためには、これはさすがに誰もこんな努力してへんやろうなみたいな、誰にもコレできてないよなってことを1人でした」と話していましたよね。 粗品:言うてました言うてました。みんなが酒を飲んでるときに、誰にも負けない努力するってね。 ──まさに「タイムトラベルマシンガン」で、そのまま描かれている。そういう意味では、粗品さんが歩んできた道程もこのアルバムには誠実に描かれているとも言えますね。 粗品:そうですね。VOCALOIDの曲を作っていたので、変な歌詞も書くはずなんですけど、今回の作詞にはまっすぐ気持ちが乗ってますね。「オーディンの騎行」だけ少しボカロ味も入れて漢字を多めにしましたけど、意味はちゃんとあるんで。その曲はびっくりされるかもしれないですね。