粗品が語る「アンチ現代音楽」の真意、初アルバムに込めた2つの大義
お笑いと音楽、粗品のそれぞれの考え方
─「サルバトルサーガ」はどういうきっかけで生まれたのでしょう? 粗品:メロディ自体は「宙ぶらりん」と同じタイミングにできていて、最初は恋愛の歌詞やったんですよ。想いを馳せる異性への甘い言葉を歌っていたんですけど、アルバムに入れるとなった時に、恋愛の曲もいいとは思うんですけど、もっと伝えたいことがあるなって。みんなが「生きてるだけで偉い」って言われてなさ過ぎるな、と思ってこういう歌詞になりました。 ─聞いてみたいフレーズがあるんですけど、<間違ってなかったんだ 虹を無視した日も>にはどんな思いを込めているんですか。 粗品:これは自分のことなんですけど、虹がかかったときに、みんながパシャパシャ写真を撮ったりとか指差したりして見惚れてる間に、自分だけはずっと無視していたんですよね。これは例え話なんですけど、いうたらほんまにキモい奴らが、そういうのに群がって「ウエーイ」とか言って時間を無駄にしてる間、自分だけは努力して頑張ってきた。だけど虹を無視してると、周りから後ろ指を刺されるんですよ。「あいつも虹を見たいくせに。カッコつけてるだけやろ」と言われる。まさに今、僕と同じような状況の人達に「そのままで大丈夫やで」って言いたくて書きました。俺は間違ってなかったからって。 ─粗品さんの音楽って、はぐれものに対して優しいですよね。権力者やマジョリティ側の人間に刃を向ける強い姿勢を持ちながら、生きることに対して葛藤し、もがいている人への優しさを送っている気がして。 粗品:ありがとうございます。うん、責めるところは責める。ただ、この曲で歌っている「生きてて偉い」に繋がるんですけど、どっちかっていうと「宙ぶらりん」で怪我した奴らが「死にたいです」と言ったら、俺は「サルバドルサーガ」で救いたい気持ちはあります。どっちかっていうと、優しさが多めのアルバムになっていますね。 ─ちょっと話が飛ぶんですけど、初期の頃に発表された「#みどりの唄」(2020年)という曲がありますよね。ある日、高校生だった“みどりちゃん”という女の子から「学校でいじめられています」というDMが粗品さんのインスタに届いて、それをきっかけに曲を作ったと。 粗品:はいはい、そうですね。 ―その後、YouTubeでみどりちゃんに会いに行った動画を見てビックリしたんですよ。DMでいじめの相談を受けていただけじゃなくて、第三者委員会に動いてもらうために、いじめの証拠を押さえる方法を一緒に考えるとか、みどりちゃんのご家族と電話をして、自分が教室に乗り込んでフリップ芸で笑いをとった後に「俺、みどりちゃんの友達です」っていえば人気者になれるかもしれないと提案されたこともあったそうですね。 粗品:よく知ってくださってますね。そうそう、ありましたね。 ―しかも、カメラが回っていたわけじゃなくて、プライベートで相談に乗られていたじゃないですか。僕ね「どうしてそこまで優しくできるの?」と思ったんですよ。粗品さんの優しさの源流は何なんだろうって。 粗品:振り返ると両親の影響が大きいですかね。母ちゃんは慈善活動じゃないけど、そういうのにめっちゃ興味のあるいい人で。父ちゃんもめっちゃ優しい人やって。この2人の間に生まれて、俺はどんな人間なんやろうと思っていたんですけど。霜降り明星の粗品という世間で売れた人間が、ちょっとファンに優しくするだけで、「大丈夫やで」ってちょっと言ってあげるだけで、その子の人生が変わるぐらいの「粗品のおかげで、めっちゃ救われた」っていうのを経験したときに、コスパいいなと思ったんですよ。俺は「大丈夫やで」と一言いっただけやのに「めっちゃ元気でました」と言ってくれる。これをみんながしてなさ過ぎるなって。芸能人はこれをもっとやったらいいよ、って思ったんですね。そういう精神からインスタでもやり取りをしますし、僕ね一般の方の友達が何人もいるんですよ。あとは、血の繋がっていない兄弟もめちゃくちゃいるんですね。そういう悩み相談されて「こうやで」って言うし、ライブに招待したり、自分なりにできることしていたんです。だけどお笑いには限界があるんで、音楽という形でもっと救いの気持ちを発信できて、今は大変満足してますね。 ─お笑いに限界があるっていうのは? 粗品:笑わせられるんですけど、感動させるのが難しいっていう。それがお笑いはネックで、だからお笑いなんですけど。笑わすってもちろんいいことやし、癌患者が「めっちゃ笑うことで治りました」というケースもあるんやろうけど、音楽の方が精神面で支えられるかなって。曲を聴いて感動して勇気をもらうとかね。お笑いで勇気ってあんまりもらわないじゃないですか? ─確かに、そうですね。 粗品:まあ嫌なことは忘れられるんですけど、ちょっと役割が違うかなって。もっと言うと、動員人数もお笑いより音楽の方がすごいし、あと世界共通でもあるから、音楽の方が僕のやりたいことに近いかなと思ってます。