中間業者を二枚も噛ませる周到な手口で行われた赤坂・溜池の「アパホテル」地面師事件...逮捕された中間業者の「弁明」とは
今Netflixで話題の「地面師」...地主一家全員の死も珍しくなかった終戦直後、土地所有者になりすまし土地を売る彼らは、書類が焼失し役人の数も圧倒的に足りない主要都市を舞台に暗躍し始めた。そして80年がたった今では、さらに洗練された手口で次々と犯行を重ね、警察組織や不動産業界を翻弄している。 【漫画】「しすぎたらバカになるぞ」…性的虐待を受けた女性の「すべてが壊れた日」 そのNetflix「地面師たち」の主要な参考文献となったのが、ノンフィクション作家・森功氏の著書『地面師』だ。小説とは違う、すべて本当にあった話で構成されるノンフィクションだけに、その内容はリアルで緊張感に満ちている。 同書より、時にドラマより恐ろしい、本物の地面師たちの最新手口をお届けしよう。 『地面師』連載第50回 『「10億越えの好物件」を相続したはずの「資産家兄弟」が行方不明...赤坂2丁目の駐車場が《アパホテル地面師事件》の舞台に選ばれた衝撃の「経緯」』より続く
10越えの物件の売却先探し
アパ事件において秋葉紘子は松本敬三と西川光雄という老人を鈴木兄弟のなりすまし役に仕立てた。松本は戦前の1931(昭和6)年2月18日生まれで事件当時82歳だった。一方の西川は仙吉と同じ26年9月20日生まれの86歳だった。なぜか歳の若い松本が兄の仙吉役に選ばれ、高齢の西川が弟の武役を務めることになる。 鈴木家の資産を譲り受けた兄弟が、赤坂の一等地を売却する――。 宮田や亀野たちは、そんな話を仕立て、知り合いの不動産業者に声をかけた。 五反田の海喜館ほどの広さはないが、坪当たりの価値はこちらのほうが高い。いくらマンションやホテルの建設ラッシュとはいえ、10億円はくだらない土地を購入して開発できる業者は、そうはいない。 その売却先探しのパートナーが、千代田区隼町の不動産会社「クレオス」だった。
グレーゾーンの中間業者
繰り返すまでもなく、クレオスの白根は宮田や亀野たちとともに東向島の事件で逮捕された不動産ブローカーである。が、起訴を免かれている。 地面師事件では、計画を立案して行動に移す詐欺それ自体の実行犯たちに加え、第三者の不動産業者がしばしば登場する。その多くは中間省略という手続きで、登記簿上にも社名が残らない。その実、不動産業者として地上げに加わり、最終的に土地を買って開発するデベロッパーを見つけてくる。中間業者としての役割を担う。 これまで見てきたように、中間業者が初めからなりすましという詐欺行為を知って犯行に加担しているか、といえば、必ずしもそうとは言い切れない。地上げ情報や開発業者の人脈のある不動産業者だからこそ地面師の頭目が力を借り、彼らに純粋な転売益を落としてやるというパターンもある。したがって、クレオスが詐欺の謀議に加わっていたかどうかは微妙なところだ。 彼らは赤坂の一等地の売買取引について、ダイリツ、クレオスという中間業者を二枚噛ませ、アパが買い取る形をとった。ダイリツはもともとパチンコ業者が創業し、宮田が事実上、あとを引き継いだ会社だ。そして、赤坂の駐車場は、鈴木兄弟が相続したものと見せかけ、ダイリツからクレオス、アパへと転売された。エンドユーザーであるアパの物件買い取り価格は、実に12億6000万円という大きな不動産取引である。
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