パク・ジョンミンが男子高校生を巧みに"演じ分け" 心温まる映画「手紙と線路と小さな奇跡」
韓国映画「手紙と線路と小さな奇跡」は韓国初の"私設駅"開業までの実話を基に描いた作品。線路はあるのに、肝心の駅がなく、最寄りの駅に行くまでは道路もないので、線路を歩くしかないという衝撃的な村が舞台となっている。 【写真を見る】「手紙と線路と小さな奇跡」 物語の主人公であるジュンギョン(パク・ジョンミン)の夢は村に駅を作ること。大統領に向けて幾度もなく手紙を送り、駅の実現に向けて様々な努力を行っていく。 その過程で最初に描かれるのが、自称"女神(ミューズ)"のラヒ(イム・ユナ)との恋模様。アイドル出身のユナ演じるラヒはとにかくキュートで、ジョンギュンを相手にするいたずらや手紙を勝手に見るなどの"悪行"も微笑ましく見守ることができる。2人の距離が縮まっていく最中で流れるポップな音楽もあいまって、映画の前半から受ける印象はラブコメディそのものだ。 だが、韓国作品らしいキュンキュンするラブコメディ作品だという認識は後半に差し掛かっていくにつれて覆される。ジュンギョンが駅を作りたいひとつの理由は電車事故に遭って亡くなる人をなくすため。ほかでもない、彼の姉ボギョン(イ・スギョン)が実は電車事故で亡くなっていたことが明らかとなる。 ジョンギュンが一緒に暮らして軽口を叩き合っているように見えたボギョンは他の人には見えていない。ある種亡霊とも言える存在で、ファンタジー要素ともなっている。しかし、決して過剰にフィクション感を強めることはなく、弟に常に優しく寄り添う姉がいることで、物語全体に温かみをもたらしている。 そして、ジョンギュンが自身の夢をかなえるために前に進むということは、父と再び向き合うということも意味する。父テユンは元々無口で無愛想だが、妻や娘を亡くしたことでよりジョンギュンとの関係はギクシャクしていた。それでも、ジョンギュンの成長や周囲の協力もあり、苦しい状況から立ち直り、再び親子が前を向いていく。原則主義であったテユンが自らの理念を変えてでも、息子のために走る姿は思わず涙を誘う。映画後半は親子の再生物語として見せているというわけだ。 映画の前後半でガラリと色合いを変える「手紙と線路と小さな奇跡」において、大きな役割を果たしているのがやはり主人公のパク・ジョンミンだ。正直に言えば、高校生には到底見えない風貌ではあるのだが、それぞれとの関係性におけるジョンギュンの演じ分けは素晴らしかった。 "女神"であるラヒの前では朴訥とした男子を演じつつ、どことなく不思議なオーラをまとわせて、天才的な数学の能力もあることに説得力をもたらす。一方で、ボギョンとのシーンでは姉をうっとうしがる思春期の弟らしい未熟さをにじませながら、誰よりも姉を想う優しさも振る舞いから感じ取ることができる。また、父テユンと2人っきりの場面は終盤に訪れるが、なかなか言葉をスムーズにかわすことができないという父と息子の関係を端的に表現。パク・ジョンミンが複数のジョンギュンを表すことで物語の変化を視聴者に受け入れやすくさせているように感じた。 起こしたのは「小さな奇跡」かもしれないが、周囲の関係性の変化は紛れもなく劇的なもの。家族愛を実話、ファンタジー、恋愛を通して表現する手法にはあっと言わされ、恋愛や親子関係も着実に一歩進んだ関係を描くラストは美しい。何より登場人物に悪い人間がおらず、優しい人間に囲まれるジョンミンは素直に応援したくなるキャラクターだ。「手紙と線路と小さな奇跡」は、私生活で何か辛いことがあった時でも、観て元気をもらえるような心温まる作品となっている。 文=まっつ
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