HIZUME──世界が注目する日本のアーティザナル・デザイナーたち
職人として、あるいはデザイナーとして職人を讃えながらアルチザン的なものづくりで国内外から支持を集める5つのブランドのクリエーションをひもとく。 【写真の記事を読む】職人として、あるいはデザイナーとして職人を讃えながらアルチザン的なものづくりで国内外から支持を集める5つのブランドのクリエーションをひもとく。
フランス国家が認めた次世代の帽子クリエイター
フランス版の人間国宝とも言える「MEILLEUR OUVRIER DE FRANCE(M.O.F.:フランス国家最優秀職人章)」。日爪ノブキは、2019年、帽子職人部門におけるその称号を日本人として初めて獲得した。 日本の大学で経営学を学び、文化服装学院のアパレルデザイン科を首席で卒業。もともとはファッションデザイナーを目指していた。「むしろ帽子は好きでなく、関心もありませんでした。僕自身あまり帽子が似合わないので」と笑いながら話す。転機は、2005年に日本で上演された舞台『ザ・ボーイ・フロム・オズ』に関わったこと。トニー賞主演男優賞を獲得した本作の日本版を製作するにあたり、その帽子や装身具のデザインを任されたのだ。実は帽子をつくるのはこのときが2度目。しかも1度目は学生時代に単位を取るための“やっつけ制作”だったと言うが、その仕事が高く評価され、以降、舞台や映画、ミュージシャンなどの帽子やヘッドピース制作のオファーが増えていく。そして、より高みを目指し2009年に渡仏。パリの帽子工房で鍛錬を積んだ。 帽子業界でも分業化が進み、デザイナーと職人では求められるものも違うという。そのなかでデザイナー気質が強い彼が、職人の最高峰であるM.O. F.に挑んだのはなぜか。そう問うと「唯一無二な存在でいたいから」と答えた。「一時代を築いたファッションデザイナーは、優れたクチュリエ、つまり職人でもありました。この業界で、唯一無二な存在になろうと思ったとき、最高のデザイナーであり最高の職人になるべきだと考えたのです。また、帽子産業は斜陽産業。素材の高騰化の影響を受けやすく、実際、この十数年で生産終了になった素材やパーツも多くあります。そうしたとき、技を知っているかどうかで、どう応用できるか、何で代用できるかが違ってくるんです」 日爪は2019年より自身のブランド「HIZUME」も展開。そのコレクションも、実に独創的だ。発酵をテーマに、カビをグラフックにしたり、ぬいぐるみやシャツをアップサイクルしハットにしたり、スナップボタンを使い、平面にも立体にもなる帽子を考えたり。「僕は雑学が好きで、どうでもいい情報でもとにかく頭に入れておくんです。創作のアイデアは、そういった情報と情報が繋がった瞬間、立ちあがってくることが多いですね。脳のシナプスみたいに」。創作で意識していることについて問うと、「壊すこと」と即答。「ロエベなどメゾンブランドがランウェイで見せるプロトタイプ製作も数多く手がけているんです。それに慣れていると、ついついすべてを美しく仕上げようとしてしまう。だからこそ自分の作品の場合には、壊すことや不完全性を心がけています。そのバランス感が自分のクリエーションで大事なこと」 今後も、パリを拠点に活動する予定だと話す。「パリでは、どんな大きなブランドも守りに入らずリスクをとる。世界をどれだけ驚かせ、感動させられるかにモチベーションを置いているんです。それが刺激的。僕もつねにそうしたマインドで帽子と向き合い、世界を驚かせたい」 HIZUME 日爪ノブキが2019年に設立した帽子ブランド。日爪は1979 年、滋賀県生まれ。2004年に文化服装学院アパレルデザイン科を卒業後、イタリアに渡り、コレクションを発表。日本に帰国後は、舞台などの帽子・ヘッドピースを制作するようになり、2009年、渡仏。2019年5月にフランス国家最優秀職人章を受章。自身のブランドでの制作のほか、メゾンブランドのコレクション用帽子なども手がける。
PHOTOGRAPHS BY KO TSUCHIYA WORDS BY MASANOBU MATSUMOTO