九州場所で新入幕の獅司、続ける故郷ウクライナへの仕送り「今はママとパパ大変だから」
生まれ故郷が戦火に見舞われていたら、どれほど心配だろう。大相撲九州場所で新入幕を果たした獅司はウクライナ南部のザポリージャ州出身だ。ロシアの軍事侵攻が続くウクライナに残る両親のもとに、毎日のように電話をかけている。 番付発表の会見では「今、ママ、パパ、大変だから。獅司、頑張らないといけない。幕内に上がってお金いっぱいもらって、ママ、パパに送ります」と決意を口にした。昨今、ここまではっきりと、稼いで親を助けると公言する力士は珍しい。 力士が手にできる金額は番付によって決まっており、幕下は本場所ごとに手当が16万5000円、十両は月給110万円、平幕は同140万円だ。幕内の取組には懸賞金(手取り1本3万円)が付くことがある。 雷部屋のおかみ、垣添栄美さんによると、かねて獅司は、その本場所手当や給与の半額以上を家族に送金してきた。ただ、ウクライナへの仕送りは日本国内のようにスムーズにはいかない。金融機関から不正な資金移動ではないかと疑われて書類の提出を求められたり、送金が滞ったり、両親側も引き出しに苦労したりしているという。 令和2年春場所の初土俵以来、一度も帰郷できていない獅司に対して、師匠の雷親方(元小結垣添)は「寂しがり屋なところがあるので、一緒にいる時間を多くしたりしています。帰れと言っても帰れないから」と、精神面のケアにも心を砕く。 ウクライナ出身として初めて幕内力士となった27歳は「ママもうれしし、みんなうれししです。勝ち越して頑張ります」と、しこ名にちなんだ得意のだじゃれで笑顔を見せた。離れているからこそ深まる家族への思い。10日から始まる九州場所の土俵もまた、遠く欧州とつながっている。(宝田将志)