「子の連れ去り問題」って何が悪いの?「共同親権」を弁護士に詳しく聞いたら「そもそも離婚時に『親権を取り合う』仕組みがどうかしていた」
「共同親権」という言葉を目にする機会が増えました。両親の離婚後に子どもの監護養育を行う「親権」は日本では「単独親権」で、両親のうちどちらか1名に帰属すると定められています。 「ですが、子どもの幸福という最大の目的を考えた場合、単独親権とは過酷な仕組みと言わざるを得ません」。こう語るのは、神奈川法律事務所の弁護士・大村珠代先生。「子の連れ去り違憲国家賠償訴訟」の共同代理人を務める大村先生は、いまから4年ほど前、無料の市民法律相談をきっかけにこの問題にかかわり始めました。 「なぜ養育費の支払いが当たり前のように止まり、子どもが幸福に生きる権利が制限されるのか。どうすればこの問題を改善できるのか、根本の部分から考えないといけません」 23年12月19日には法制審議会の家族法制部会が共同親権を原則とする要綱案の試案を示しました。来年初めにも要綱案を取りまとめ、政府は早ければ来年の通常国会に民法改正案を提出する見通しです。 とはいえ、共同親権にすると、DVから逃げようとしている女性が居所を突き止められてしまい、暴力から逃げる権利がなくなってしまうのではないでしょうか?
逃げられないことではなく「DVを止める仕組みがないこと」が問題
私たちオトナサローネは夫のモラハラやDVに苦しむ女性の声を聞く機会が多いため、そんなDV夫から逃げられない共同親権は地獄としか思えません。取材者である私は、共同親権には懐疑的、むしろ反対という立場からお話を伺います。 「そうですよね、お察しします。それもそもそも、仕組みの側が間違っているせいで起きていることです」 仕組みの側……? 「たとえばこの分野の先進国であるアメリカでは、DVに際して警察を呼べばすぐ裁判所につながり、即行で夫婦を引き離し、まずは安全を確保します。そのうえで、DVの有無を認定するための審理を迅速に開始します」 具体的にはどのように? 「面接は夫婦別々に行われ、両方の言い分を聞いたうえで、DVが認定される場合は従来なら共同である親権がすぐに停止されます。DVを行う者の親権は素早く安全に制限されるのです」 日本では警察に頼っても「夫婦げんかは民事不介入」と言われてしまうと聞きます。その部分がそもそも違うのですね。 「はい。アメリカを主とする諸外国ではDVに警察が介入し、被害者の安全を守る仕組みが確立しています。いっぽう、日本では110番通報してもその場で分離とはならず、その後の裁判手続きも長くかかります。本当に命に危険のあるDVが起きていたとしても、接近禁止命令は裁判手続きで得る必要があります。証拠を集めて提訴してと、大変な負担と時間がかかります」 そうですよね。身動きがとれない時間が長すぎるという話は、モラハラの取材でもよく聞きます。 「なので、危険がある場合に『逃げる』以外の選択肢がなく、連れ去りが起きます。このように、日本は逃げる原因となるDVに対する支援が薄いことが問題であり、親権が単独かどうかはその次の段階の問題なのです」