戦略転換で売上10倍、榊淳社長が語る一休に転機をもたらした「ある顧客の声」
■ 「データドリブン経営」の本質は「顧客重視の経営」 ――著書『DATA is BOSS』では、「データドリブン経営」を実践する上での「データとは顧客である(データ≒顧客)」という認識の重要性を述べています。これは何を意味するのでしょうか。 榊 経営者の方々に「経営において一番大切なことは、顧客を理解することですよね」と聞くと、皆さん口をそろえて「その通りですよ」と答えます。しかし、同じ経営者に「顧客を理解するために、顧客データを分析していますか」と聞くと「分析していない」と答えるケースが多いのです。そして、「データ分析は苦手なんだ」「データよりも勘と経験が重要だよ」と言われることもあります。 私は、その考え方が間違っていると思います。顧客データは決して、単なる「数字」ではありません。顧客データとは「顧客そのもの」なのです。なぜなら、顧客データには「顧客の行動や心理(気持ち、思い)」が埋め込まれているからです。 ときに、顧客自身も気付いていない感情や願望まで現れることもあります。顧客データを見ていると、顧客と会話をしているように感じることもあるくらいです。 ――顧客を理解する上では、顧客データから多くのことを読み取ることが欠かせないのですね。 榊 医者が患者を診断したり、治療をしたりする場合も同じだと考えています。例えば、医者が患者を治療する時には、患者の血液検査やCTのスキャンデータを見ますよね。単に数字を診ているのではなく、患者の身体の調子や健康状態、さらには日々の生活習慣を分析するわけです。 ──そこまでデータを重視し、分析する日本の経営者はなかなかいないのではないでしょうか。 榊 データドリブン経営はグローバル企業の間では常識になっています。しかし、まだ多くの日本企業には浸透していないように感じます。例えば、企業の経営方針をプレゼンテーションする場面でも、経営方針は経営者が語りますが、その根拠となる顧客データの分析結果になると「ここからは分析担当者に任せます」とマイクを渡す場面が多く見受けられます。 しかし、本当はそこが一番大事なところなのです。なぜなら、データはお客さまそのものだからです。「データを見ていない経営者」は「顧客を見ていない経営者」だと言っても過言ではないと思います。 データドリブン経営は「データを重視する経営」ではなく、データの向こう側にいる「顧客を重視する経営」です。つまり、データ主導で徹底的に「自分たちの顧客は誰で、顧客が最も喜ぶ行動は何か」、そのために「私たちは何ができるのか」を経営のどの局面でも考え抜くことです。 もちろん、口で言うほど簡単なことではありません。だからこそ私も毎日、データをにらみながら「どうすれば、お客さまに満足してもらえるか」を考え続けています。
三上 佳大