『悪は存在しない』濱口竜介監督 小規模な制作環境がもたらすもの【Director’s Interview Vol.401】
コロナ以後の“ものの感じ方”
Q:グランピングの説明会のシーンでは、空気感がだんだん出来ていく感じが良かったです。いい感じで終わるのか、決裂するのかドキドキ感がありました。どのように撮影されたのでしょうか。 濱口:シーン全体を一通りやってもらって、それを何度か通すことを2カメで2日間撮影しました。あそこはすごく大事な場面でしたが、ある意味では準備しやすい場面。ちゃんとセリフを覚えてやれば良いシーンだったので、ここはしっかり撮ろうと思っていました。撮影を始めて3~4日目くらいのタイミングでしたが、それまではライブパフォーマンス用の映像のことしか考えていなかったのが、このシーンの撮影から普通に映画として見られるものになるかもしれないな、と考え始めました。 Q:今回も『偶然と想像』のようなユーモアの感じがありました。事務所の絵画と同じポーズをとるシーンでは試写室で笑いが起きていました。 濱口:あれは撮影した実際の芸能事務所の壁に置かれていた絵画なんです。どうしようかなあと思ったときに、あの演出だったらいけるんじゃないかと。まぁ、その場その場でやってみるというのはありますね。コンサルタントが出てくるシーンなどは私も笑ってしまうのですが、ああなったのは、やっぱり役者さんの力だという気がします。一歩間違えると単に不快な場面になった可能性もありますが、コンサルタントと事務所の社長とのやりとりが、「彼らは彼らで本気で言っている」と思わせてくれたのは、やはり演技の力が大きいと思います。 Q:コンサルが車内のスマホからオンライン会議にアクセスしている感じなど、片手間加減にとてもリアリティがありました。 濱口:その辺は、コロナ以後の自分の“ものの感じ方”が反映されていると思いますね。 Q:やはりコロナは大きな出来事だったと。 濱口:そうですね。かなり大きいと思います。「こんなに家に籠ることがあるんだ」と皆さん感じたと思いますし、それでも世の中が回っていくことも驚きだった。あれを体験すると価値観は変わりますよね。
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