1回限りの「定額減税」に早くも延長論が…経済合理性を無視した「与党の政治的思惑」
自民党が過去に犯した「大失敗」
自民党の木原誠二幹事長代理は出演したテレビ番組において、経済状況次第では来年も実施する可能性があると発言した。鈴木俊一財務大臣は即座にこの発言を否定し、定額減税はあくまでも1回限りであると強調しているものの、与党内に延長論が出ているのはほぼ間違いない。 しかしながら、定額減税を延長することが果たして効果を発揮するのかは疑問であり、むしろ自民党にとって鬼門となる可能性すらある。その理由は、過去にこのパターンで大きな失敗をしているからである。 1998年、橋本龍太郎首相は所得税の減税を表明し、これを材料に参院選に臨む算段だった。ところが橋本氏は減税が恒久的なものか、一時的なものなのかで発言を翻し、野党やメディアから総攻撃を受けてしまった。その結果、参院選では大敗北となり、橋本氏は退陣を余儀なくされてしまう。 結局、定額減税は行われたものの、橋本氏の後を継いだ小渕恵三首相は、定額減税を定率減税に切り替えた上で、恒久減税として実施。小泉政権が取りやめるまで10年間、所得税の減税措置が続いた。 大規模な所得税の減税を10年間続けたものの、その効果は芳しいものとは言えなかった。その理由は減税が実施された後、日本経済はデフレがさらに激しくなり、2003年には日経平均株価が暴落。金融恐慌さえ囁かれる状況となったからである。景気が悪いところに減税を行っても大きな効果を得られないというのは経済学の常識であり、タイミングが悪かったといえ、この政策はほとんど意味をなさなかったと言わざるを得ない。
効果が高いのは「減税」ではなく…
恒久減税か、1回きりの減税かで議論となっていることや、選挙を控えていることなど、今回の定額減税と98年の定額減税はよく似ている。 繰り返しになるが、減税というのは景気がある程度、良い状態において、その流れを確実にするためには効果的な政策ツールといえる。だが景気が減速していたり、消費が低迷している時には、そもそも多くの所得を得ることができないので、減税の効果は限定的なものになってしまう。 現状の日本経済は消費が著しく低迷している状態であり、3四半期連続でマイナスもしくはゼロ成長という、リセッションとも呼べる状況に陥っている。 こうした状況では、給付金の方がまだ効果が高いということになるだろう。選挙対策や政権の延命という観点から定額減税の延長論が出てきているわけだが、これが経済に何らかの好影響を与える可能性は今のところ低いと言わざるを得ない。
加谷 珪一