世界選手権金の川井梨紗子が号泣した理由
その緊張がようやく解けたのは、優勝を決めて、表彰台の一番高いところに上がったときかもしれない。メダルセレモニー。左にいる2人の選手のために銅メダルが運ばれてくると、アジア大会のときの自分のことを思い出して、あふれる涙を左手で押さえずにはいられなかった。 「2か月前は、私があの場所にいたんだなと思うと堪えきれませんでした。怖いという気持ちは完璧に消えたわけじゃない。でも、ここからの積み重ね次第だと思っています。去年のパリ(世界選手権)で優勝してからの一年間で、いろいろあったなと思いながら『君が代』を聞きました。私の場合、結果だけ聞くと連覇なので、何事もなく順調に見えるかもしれません。でも本当に、自分にとって色々なことが起きた一年だったなと思いました」 2020年東京五輪の予選が始まる年末の全日本選手権へは、どの階級で出場するのかという質問が飛んでも「(妹の)友香子の試合が終わって、相談して決めます」と明言を避けた。先頃、大会に出場し選手として復帰した伊調馨(ALSOK)は57kg級を選んだが、同じ階級で勝負するかどうかについても「これから話し合って」としか回答はない。 4年前、まだ日本代表メンバーの常連になる前の川井は、伊調馨を破って五輪へ出場することを目標にしていた。その後、組み手のうまさを買われて本来より重い階級へ一時的に変更、2016年のリオ五輪では期待通りの金メダルを手にした。それから2年、川井の組み手はますます冴え渡り、今回の世界選手権決勝でも、自分より大柄なエシリルマリク(トルコ)を翻弄し続け、一度も得意な形を取らせなかった。 そこまでの強さを見せながら「タックルの処理がよくなかった」と反省を口にした。 女子レスリングの技術を進化させた伊調馨と、さらに発展させる可能性がある川井との代表争いが見たいと願うのは、欲張りな望みだろうか。 (文責・横森綾/フリーライター)