PBRをいかに高めるか レゾナック、NECの好例から探る
企業の資金調達に要するコストなどを指す「資本コスト」。近年、東証による「資本コストや株価を意識した経営」などの要請を受け、企業はPBR(株価純資産倍率)やROIC(投下資本利益率)を意識した資本コスト経営が求められている。 【画像】KPI達成の再現性を高めるDX(アビームコンサルティング提供) これまでの2回にわたる連載では、ROIC経営をうまく活用してPBRを高めている企業の傾向として、(1)事業ポートフォリオの組み替え、(2)現場KPIの厳選と徹底、(3)知的資本の投資効果追求、(4)連結経営管理のデータインフラ整備が行き届いていること――を紹介した。 とはいえ、これらは結果論であり、現状できていない企業がそのレベルにたどり着くことは容易ではなく、企業実務上は理屈通りには進まないこともまた事実である。 最後となる第3回は、アビームコンサルティング執行役員 プリンシパル 製造ビジネスユニットの藤田欣哉氏が解説。高PBR実現に向けた実務上の課題と処方箋をもう少し掘り下げていきたい。
高PBR実現に向けた企業努力の現状
昨今の東証や投資家などによる「外圧」を受けて、PBR=ROE×PERの両者を引き上げる努力は各社とも相応に重ねている。 ROEについては、小手先と見られがちな財務レバレッジの引き上げや非事業資産の収益貢献を除いては、持てる事業群の純粋な「稼ぐ力」としてのROICを高めるしかないが、オムロンや日立製作所のような先進企業に倣い、多くの企業が美しいROICツリーを描き、ROIC向上に向けたアクションアイテム(戦略施策)とKPIを設定し、着々と実行しているように見える。 しかし実態は、方程式通りにROICが上がらない、個別KPIの達成も追っているが、こちらを立てればあちらが立たず、というケースも多い。 PERについては、ROIC以上に悩みを抱えるCFOが多い。典型的なのは、自社では真っ当な経営をしているつもりなのに、「見えない資産」について投資家に理解してもらえないという悩みである。具体的には、次のような声が挙がっている。 ・蓄積された知的資本の価値を分かってもらえない(バランスシートに載らない部分はなおさら) ・コングロマリットによるシナジー(プレミアム)が確かにあるのに、理解してもらえない ・個々の事業の秘めた成長性を説明するのに重要情報に触れる必要があるため開示が難しく、結果、株主が理解できる範囲での説明ができない