オバマ大統領が広島訪問 「核なき世界」の実現にはどれくらい時間が必要か
広島にも持ち込まれた「フットボールとビスケット」
27日夕方に広島市の平和記念公園を訪れたオバマ大統領は、17分間の演説の中で「核なき世界」を目指そうと、世界に向けてメッセージを発信した。また、現職の米大統領が広島を訪れ、平和記念公園内で献花を行い、被爆された方と抱き合ったシーンは歴史的な瞬間として各国のニュースで取り上げられた。一方で、核軍縮や核不拡散を具体的にどう進めていくのか、アメリカがどのくらい本気でその問題に取り組もうとするのかという点には疑問が残ると言わざるを得ない。 米英の複数のメディアは、「核のフットボールとビスケット」の存在を取り上げ、これらがオバマ大統領の広島訪問の際にも現地に持ち込まれていたと伝えている。「核のフットボール」とは、黒皮に包まれた重さ約20キロのアタッシュケースをさす俗称で、中には米大統領が核兵器の使用を許可するための通信機器が入っている。大統領がホワイトハウスを離れる際には、このアタッシュケースを持った軍事顧問が必ず大統領に同行する。大統領は「ビスケット」とよばれる特別なカードキーを常時携帯しており、アタッシュケース経由で米軍に核兵器使用を許可する場合に、カードキーを使って大統領本人であるという認識作業が必要になるのだという。 「核のフットボール」はキューバ危機に直面したケネディ政権から本格的に使われるようになった。カードキーをスーツのポケットに入れっぱなしだったカーター大統領が、誤ってカードキーの入ったスーツをドライクリーニングに出してしまったという話や、暗殺未遂事件の際に病院に運ばれたレーガン大統領とアタッシュケースを持った軍事顧問が離れ離れになってしまったというエピソードが残っているものの、基本的には米大統領の近くには「核のフットボール」を持った軍事顧問が常にいる。それが広島であっても。
「核のフットボール」は核保有国アメリカを象徴する代物だが、アメリカ国内における核兵器に関連した政策に目を向けても、オバマ大統領が世界に向けて発信した「核なき世界」の実現化はまだまだ遠い先の話のようだ。米軍は昨年から新型核爆弾「B61 12型」を飛行中の爆撃機から投下する実験を開始し。1966年から現在までに3000発以上の「B61」が配備されてきたが、現在開発中の12型にはより多くの電子機器が組み込まれ、精密爆撃が可能になるとニューヨークタイムズ紙は今年1月に伝えている。新型核爆弾の実験は、今後30年で1兆ドルを投じて行う核兵器性能改善計画の一環で、新型のミサイルやステルス爆撃機などの開発や配備も同時に進められていく予定だ。国内の政治的な駆け引きでオバマ大統領が譲歩せざるをえなかったという指摘もあるが、対外的なメッセージとして「核なき世界」を声高に叫ぶオバマ政権が、自国の核兵器の削減に及び腰では批判を受けるのも当然だ。 加えて、オバマ政権下で実際に削減された核兵器の数が、冷戦後の歴代政権の中で最も少なかった事実も判明している。ブッシュ政権下(2001~2008年)で約5300発の核兵器が削減されたのに対し、オバマ政権下で削減された核兵器は約700発に過ぎず、2013年に米国防総省から議会に提出された報告書に記された削減可能数よりも少ない。ロシアとの関係悪化などが原因で、オバマ大統領が就任当時に描いていたような形で自国の核兵器削減を推し進められなかったとする指摘も存在するが、オバマ大統領の核軍縮ビジョンは現時点で「有言実行」と言えないのも事実だ。原爆投下に対するアメリカの世論が少しずつ変化を見せるまでに70年を要したが、「核なき世界」の実現にはどのくらいの時間が必要なのだろうか?