オバマ大統領が広島訪問 「核なき世界」の実現にはどれくらい時間が必要か
原爆使用の是非めぐり70年で変化した米世論
オバマ大統領が1期目から自らに課した大きなタスクの一つが、核軍縮と核不拡散の推進だ。しかし、「核兵器を無くす」という考えにはアメリカ国内でも世論が二分している。 CNNが2010年に実施した世論調査では、回答者の49パーセントが「アメリカを含む数か国は、他国の攻撃に備えて核兵器を保有すべき」と答えている。同様の調査が行われた1988年、回答者の56パーセントが「世界中からすべての核兵器を無くすべき」と答えていたが、冷戦終結後の現在の方が核兵器保有を支持する声が多いのは皮肉な話だ。核兵器を巡る世論調査には、第二次世界大戦末期に広島と長崎における原爆投下の「正当性」に関するものもある。こちらに関しては、時間の経過とともに原爆投下に否定的な見方をするアメリカ人が増えてきているが、「原爆を使用しなければ、より多くのアメリカ人が戦地で命を落としていた」という考えはアメリカ社会に根強く残っている。 1945年にギャラップ社が実施した世論調査では、回答者の85パーセントが広島への原爆投下を支持したが、それから70年後の2015年にピュー・リサーチ・センターによって行われた世論調査では、広島と長崎に対する原爆投下を支持するアメリカ人は56パーセントにまで減少していた。 70年の間にアメリカ人の原爆投下に対する意識の変化が徐々に生じているように思えるが、原爆投下に対する見方には世代によって温度差が存在し、1980年代から2000年代初頭に生まれたいわゆる「ミレニアル世代」においては原爆投下に対する否定的な意見がより顕著になっている。調査に携わったピュー・リサーチ・センターのブルース・ストークス国際経済世論調査部門ディレクターが、調査結果から垣間見えるアメリカ国内の世論の変化について語る。 「原爆投下に関する世論調査で、原爆投下は正しい判断だったとする声が、なぜこれだけ減少したのかを完全に知りうることは不可能ともいえる。ただ、一つの要因として過ぎ去った時間の存在を挙げることは可能であろう。広島での原爆投下や第二次世界大戦はそれぞれ『歴史』の中に消えてゆき、戦争体験者の数も減少傾向にある。高齢のアメリカ人と比較した場合、アメリカの若い世代の間では、原爆投下を正当化しようと考える人の数が少ない。我々の調査では、65歳以上のアメリカ人の70パーセントが原爆投下の正当化を支持しているが、18歳から29歳までの若い回答者になると、原爆投下の正当化への支持は47パーセントにまで急落する」 調査結果からは、原爆投下に対する日本とアメリカのギャップが少しずつ埋まりつつある傾向も見える。再びストークス氏が語る。 「(2015年に行った)調査では原爆投下に対する日本とアメリカにおける見解のギャップが狭まってきたことを確証するものはなかった。しかし、より多くのアメリカ人が原爆投下の正当性に否定的な見解を示すようになり、その点では日本人が長年にわたって抱いてきた思いに近づいているとも言えるだろう」 米ランド研究所のアジア太平洋政策センターでアソシエイト・ディレクターを務めるスコット・ハロルド氏は、オバマ大統領の広島訪問によって日米間の原爆使用を巡る認識のギャップが埋まるという考えには否定的であったが、広島訪問が世界に向けて大きなメッセージを発信すると確信している。 「オバマ大統領の広島訪問によって日米間のギャップが縮まるとは思えない。なぜならば、今回の訪問は戦争被害に苦しんでこられた方々に敬意を表し、同時に世界の核保有国に対して被爆地の広島からメッセージを送る目的で計画されたからだ。アメリカはロシアや中国、パキスタンやイランといった国々、さらには北朝鮮に対して、核兵器の配備や使用を決して行ってはならないという姿勢を打ち出す必要がある」