KYOJO CUP 2024 第4戦|台風接近からスタートした女子レーサーたちの熱気あふれる戦い|2024年8月18日(日)リポート
KYOJO CUP史上最大となる31台に膨れ上がった参加台数 女性ドライバー限定の国内最高峰レース「KYOJO CUP」。年間エントリー制を基本としているが、シーズン中盤以降はスポット参戦が増えてくる。開幕戦までにチームの体制が整わないというドライバーもいるが、もっとも多い理由はレース日程が被っているものだ。8月18日に予選、決勝が行われたKYOJO CUP第4戦にスポットで参加した恒志堂レーシングのいとうりなはその典型と言えるだろう。 2017年の第一回大会以来参加を続けている女性レーサーのパイオニアのひとりであるいとうりなは、基本的にKYOJOを主軸に置いているが、KYOJOチームの状況や自身が参加するスプリントやラリーなどと日程が被り、KYOJO CUPに参加できない場合もある。 【画像13枚】参戦ドライバーやマシンなど 特にいとうりなはその容姿だけでなく、ドライバーとしての腕も確かなことから、数多くのチームから引っ張りだこ状態。年間で何レースもこなしながらすべてを手堅くまとめる。 そんな彼女の復活参戦もあり、KYOJO CUP 2024 第4戦はKYOJO史上最高参加台数となる31台がグリッドに並ぶことになった。 KYOJO CUPの前日に行われるFCR-VITAにも多くのKYOJOドライバーが参戦 南海トラフが疑われた一連の大きな地震発生のあと、3つの台風が日本列島に向けて次々に発生。レース本番は大荒れになる可能性もあったが、結果から言うと台風の直撃は避けられ、KYOJO CUPを含むすべてのレースが無事開催された。 KYOJO CUPと同時開催されるレースは、KYOJOと同じくマシンをイコールコンディションにしてドライバーの腕を競うというコンセプトを持つインタープロト、そしてKYOJO CUPの先日に富士チャンピオンレースが行われる。ちなみに富士チャンピオンレースはFCRと訳され、86、ロードスター、デミオ、ネオヒストリックカーそしてFCR-VITAの5つにカテゴライズ化され、KYOJO CUPの前日にはその中のFCR-VITAカテゴリーレースが行われる。マシンはKYOJO CUPで使用されるVitaであるため、ほとんどのKYOJOドライバーも参加するレースだ。KYOJOの中では前哨戦とも称されている。 ちなみに10月に行われるFCR-VITAは2時間耐久レースで、これもほとんどのKYOJOドライバーが参戦。KYOJOドライバー2名がチームとなるため、いつもとも変わった雰囲気。こちらもぜひ楽しみにしてほしい。 8月17日(土)に行われたFCR-VITAはKYOJOメンバーを合わせ51台のマシンが参加。優勝はKYOJO CUPの賞金ランキングトップを走る斎藤愛未で、男性ドライバーの中でも遜色ない速さを見せつけた。ちなみに他のKYOJOドライバーも20位以内に10名が入り、KYOJOのレベルの高さを見せつけることになった。 予選でも異次元の速さを見せる斎藤愛未 それを追う翁長実希と下野璃央 8月18日(日)の第4戦。基本的にKYOJO CUPの予選は同日に行われる。朝8時の予選スタート時、各自のピットから争うように飛び出していく各マシン。 KYOJO CUPは他のレース以上に予選順位が大切だ。その理由は3つある。1つは参加台数の数。これだけの台数のマシンが、広く長いFSWの長い直線から一気に狭いTGRコーナーに雪崩れ込むのだから、できるだけ前にいて集団に埋もれないようにしなければならない。そのためにも予選上位は必須となる。2つ目にVitaのスリップストリームの効果。Vitaはそのボディ構造からスリップストリームの効果が高く、それによって非力なエンジンパワーを補っている。もちろん全車同型車であるため、レース中のスリップをいかに効果的に使うかで勝敗が決まってくる。 そのためKYOJO CUPでは1週目から全車が目の前の車両のスリップに入るため、1本の糸のように連なって隊列を組み、まるでセーフティーカーが入っているかのような状態になる。これは先頭を走るポイントランキングトップの斎藤愛未の圧倒的なストレートの速さに付いて行ってやろうとする翁長実希と下野璃央が後続に付き、追い抜けるポイントでもあえて抜かずに、後半勝負をかける戦略によって補完され、他のドライバーも同じように隊列を組むことから数週に渡って行われる。 ひどい時にはメインスタンド前の直線に入るまでこの隊列が崩されないため、KYOJO関係者の間では「斎藤愛未ドライビングスクール」と呼ばれている。2024年第2戦から参加の池島実紅は、5年ぶりの参加であったためこの奇妙な隊列に驚き、しばらくの間、この隊列を崩し、追い抜いていいのかダメなのか迷ったという。 斎藤愛未ドライビングスクール状態の隊列。 予選順位を1つでも上げようという各選手に対し、翁長と下野の2人は最初からターゲットを斎藤に絞り、予選の段階からストレートで圧倒的な速さをみせる彼女についていこうとする。 斎藤のストレートの速さについてはマシンが違う、付けているパーツが違うなど数多くの意見やくだらないSNSのコメントなどがあるが、彼女自体KYOJOに参戦した2020年の時点ですでにストレートの速さには定評があり、圧倒的にコーナーが早い翁長実希に対してストレートの伸びの良さで引き離すという構図は、今に始まったことではない。 実力的には斎藤と翁長に負けていない下野。最終戦までにポイント逆転することを目指し、ポールポジション獲得で得られるポイントや、ファステストラップで得られるポイントも確実に取っていこうという姿勢が見える。予選のコースインの際も斎藤のすぐ後ろを下野がぴったりとマークしていた。 のちのインタビューでは「途中でピットに入っても愛未ちゃんに付いていこうと思ってました」と語るほど。ファイターと評される下野が早くも斎藤へのライバル心をむき出しにする。 予選は孤高のドライバー山本龍のみが1人飛び出し、その後ろはゆっくりと走る「斎藤愛未ドライビングスクール」が始まっていた。 1週目は隊列から飛び出した荻原友美がトップタイム、そして驚くべきことに今期から参戦の及川紗利亜が続く。さらにここ2戦で一気に調子を上げてきた保井舞が2分00,794という自己ベストで2位に。それに続くように各選手がベストラップを重ねる。そんな中、ドライビングスクールをやめた斎藤がいきなり1分59,822を記録。結果的にこれが全車の中でベストとなりポールポジションを獲得。 そして斎藤にぴったりとくっついていた下野は2分00,004と全体2位のタイムに。実力者である永井歩夢、岩岡万梨恵が3位、4位。その後ろの5位に翁長となった。6位になった山本だったが四輪脱輪で脱落。15番グリッドからのスタートとなった。繰り上がり6位となったのはセクターワンで圧倒的な速さをみせる坂上真海、7位に帰ってきた実力者池島実紅、8位に平川真子、そして9位に自己ベストを出した保井舞が入った。ここまでが予選シングルの面々。中盤クラスのドライバーがシングルに入るという意外な予選となった。 それぞれの悩みを抱える上位の3台 KYOJO史上もっとも頭を使うレースに トップ2人を除き、意外なメンバーがスタートグリッド上位に並んだ決勝レース。ピットでは全メカニックがこの状況を恐怖に感じていた。ただでさえ31台という過去最大数。慣れないシングルグリッドのドライバーがTGRコーナーでの渋滞で下手を打たないかを心配していた。そんな不安の中、今季もっともキレイなスタートを切った各車。スタートで失敗した永井歩夢の後ろから翁長実希が一気に2番手へと飛び出し、早くもトップ3台が連なる展開に。後続の各車も1コーナーを何事もなく通過。 2週目に斎藤愛未を抜いた翁長がトップに。その後ろを下野璃央が付ける。この2人になかなか付いていけない下野は「マシンのフィーリングが悪くて2人に付いていくのがやっとでした」と後に語る。「愛未ちゃん(斎藤)に逃げられると困るので、2位の実希ちゃん(翁長)とバトルをしないように心がけました」。ドライバーの実力でなんとか2台に付いていくものの、8週目からジリジリと離される展開。 そして翁長は「いつものように最後で勝負とは思いましたが、離されると追いつかないと思ったので、厳しいレースでした。それにあまりトップ2台でバトルをすると後ろから追い上げられると思ったので、かなり頭を使う展開でした」と語ったが、9週目から斎藤に離され始める。 面白いのは4位を争った坂上真海。今回のMVPと言える活躍。坂上と10週目までバトルしたのが平川真子とバートン・ハナ。この3人の争いはトップ3台以上の迫力。最終的に坂上がスピンし、勝負が決することになる。そしてその背後も激しいバトルが展開。グリッド降格から鬼の追い上げをみせた山本龍。それを追う20歳になった佐々木藍咲、岩岡万梨恵、池島実紅。その後ろからスタートで失敗した永井歩夢が一気に4人を抜き去る荒技。 上位3人にも負けないここ一発の速さを持つ永井。安定感さえあれば表彰台常連になる実力を持っている。さらにその後ろではポイントを狙う保井舞、いとうりな、萩原友美、金本きれいがバトル。 トップだけでなく、各グループすべてが激しいバトルを行う、白熱したレースとなった第4戦。 優勝は斎藤で2位翁長、3位下野という順番。「とにかく風が強くて、各コーナーでかなりあおられていて、後続を引き離すことができませんでした」と斎藤。前日のFCRで圧倒的な速さを見せていた彼女も台風の影響か、強風のコースの中では万全ではなかったのである。「かなり頭を使うレースでした。風のせいでダウンフォースがうまく効かなかったので、早めに前に出て逃げ切ることを考えました。ただ、一気に引き離すことができなかったので、毎周少しずつ差を広げようと努力しました」。翁長、下野とも違う、斎藤独自の戦略での勝利だった。 4位のバートン・ハナはファステストラップを記録。5位平川、6位山本、7位佐々木、8位岩岡、9位に5秒加算のペナルティが課された永井、10位池島という結果だった。 今回は坂上と保井という中位~下位の選手がシングル常連グループを脅かしたが、タイム差を見てもトップから最下位までが縮まってきていることが明らか。関あゆみや織戸茉彩など自身最高順位を記録した若手ドライバーのほか、最高齢のおぎねぇが予選で中位をキープするなど全体のレベルが上がってきている。 KYOJOのマシンがイコールコンディションで無くなってきていると語る選手が多かった。その中でほぼ素のままのVitaを使う翁長の凄さはより引き立つものとなっている。来季からKYOJOマシンはフォーミュラーとなり、トップ選手のほとんどが乗ることになる。マシンがリセットされ、再び純粋なイコールコンディションになった際、現在のランキングがどのように変化するかも楽しみなところだ。
Nosweb 編集部