「禁書」が広がるアメリカ、LGBTQ関連本を図書館から撤去 保守派「価値観の押しつけ」と主張、反対派は「多様性の尊重が重要」と批判
▽教育内容を決めるのは誰ですか こうした禁書運動の中心となっているのは、全米に支部を持つ保守派団体「マムズ・フォー・リバティー(自由を求めるママたち)」だ。子どもはいつ性の多様性を学ぶのか、もしくは学ばなくてもよいのか。決めるのは「政府ではなく親だ」と強調する。 CNNテレビが2023年に同団体を特集した際、インタビューに答えたコロラド州支部代表の女性は、より多くの子どもをゲイやトランスジェンダーにするための陰謀があると話し「教師や労働組合、わたしたちの大統領までもがこうした動きを後押ししている」と根拠を示さずに主張。「家族を破壊し、伝統的な保守の価値観を壊し、人々の考えを変えようとしている」と危機感をあらわにした。 ▽公立学校の目的は何か 反対する団体もある。ニューヨークに拠点を置く「ディフェンス・オブ・デモクラシー(民主主義の擁護)」の事務局長カレン・スボボーダ(53)は、米国の公立校の目的は「幅広い知識を持ち、批判的思考ができる市民を育て、統治システムに参加できるようにすることだ」と指摘する。
「教室で何を教えるか、選ぶ権利を持っているのは教育者であり、親ではない。公立学校は個々の家庭ではなく、公共に仕えている」と話す。図書館の司書や教師が親に攻撃される事例が相次ぎ、懸念を強めているという。 LGBTQに関連する本の撤去について「同性カップルの子どもに、あなたの家族はまっとうではないと言っているのと同じだ」と抗議する。「子どもが本の中に自分の姿を見つける機会を失う」と述べ、本来の自分を隠さなければ生きられないような社会にしてはならないと訴えた。 ▽教育とジェンダーは大統領選でも争点 教育とジェンダーは、11月投開票の大統領選でも重要な争点の一つになっている。前大統領ドナルド・トランプ(78)を候補とする共和党は、「過激なジェンダー思想」を子どもに押し付ける学校への連邦政府の資金拠出を削減すると党の綱領に明記した。 トランプ氏は8月下旬、マムズ・フォー・リバティーの会合に駆けつけ「子どもが学校に行き、数日後に性転換手術を受けて帰ってくる」と根拠なくまくし立てた。
民主党候補の副大統領カマラ・ハリス(59)は7月25日、南部テキサス州で米教師連盟の全国大会に出席。禁書の動きを批判し、LGBTQの権利擁護を誓った。8月にイリノイ州シカゴで開かれた民主党大会では「オープンに自信を持って、自分が愛する人を愛する自由」の重要性を訴えた。 民主党の副大統領候補のミネソタ州知事、ウォルズ(60)は、保守派による禁書の動きに関し「2羽の雄ペンギンが愛し合っている絵本を読むことが、自分の子どもをゲイにすると考えている」と批判した。