「禁書」が広がるアメリカ、LGBTQ関連本を図書館から撤去 保守派「価値観の押しつけ」と主張、反対派は「多様性の尊重が重要」と批判
LGBTQ(性的少数者)を象徴する虹色の表紙に「THIS BOOK IS GAY(この本はゲイ)」というタイトルが書かれた本が2014年に出版された。LGBTQの作者が性に関するアドバイスや人々の体験談をつづった若者向けの1冊だ。イラストを多用し、親しみやすい文体で、自分の性自認に関する疑問を持つ子どもたちに「全ては不思議に思うことから始まるんだよ」と語りかける。 【写真】自分がいない朝礼で上司が「次に来る新人は、ゲイ」と暴露 従業員たちは全員で「知らないふり」も、陰で誰に最初にカミングアウトするかを賭けていた 「子どもがアリをつぶすような、ちょっと残酷な好奇心ですよ」
子どもにありのままの自分自身を受け入れてほしいという作者の思いとは裏腹に、全米のどこでもこの本を読めるわけではない。性的指向や性自認、人種差別がテーマとなっている本を公共図書館から撤去する「禁書」が広がっているためだ。(敬称略、共同通信ワシントン支局 比嘉杏里) ▽教育現場で進む分断 背景にあるのは教育を巡る保守派とリベラル派の対立だ。保守派は学校が性の多様性を教えるのは「価値観の押し付けだ」「洗脳だ」と訴え、教育内容を決めるのは親の権利だと主張する。 一方、リベラル派は同性カップル家庭の子どもやトランスジェンダー当事者の存在を否定することにつながると反発している。亀裂は「文化戦争」と呼ばれ、教育現場でも分断が進んでいる。 ▽学校で「ゲイ」と言ってはいけない 2022年3月、南部フロリダ州で、性的指向や性自認について授業で話すことを規制する州法「教育における親の権利法」が成立した。共和党の知事ロン・デサンティス(45)は「子どもたちは洗脳ではなく、教育のために学校に通うようになる」と誇った。
反対派はこの州法を「ゲイと言ってはいけない法」と呼ぶ。性自認や性に関する学校での指導を制限する内容で、対象とする子どもの世代は、当初、初等教育(幼稚園から小学校低学年程度)だったが、その後、高校まで引き上げられた。 保守派はこの法を根拠に「子どもにふさわしくない」と考える内容の本を学校の図書館から撤去するよう要求。特に「露骨な性描写」や「暴力的表現」があるという理由でLGBTQ関連の本が標的になった。 ▽フロリダ州は5107冊を禁書扱い 絵本も対象に含まれる。米国で初めて同性愛者を公言して公職に就いたハーベイ・ミルクの人生を描いた「レインボーフラッグ誕生物語」(邦題、日本では汐文社が刊行)、2羽の雄ペンギンがひなを育てる「タンタンタンゴはパパふたり」(邦題、ポット出版)も撤去された。 表現の自由を守るための活動に従事する非営利団体「ペン・アメリカ」の2024年の報告書によると、2021年7月から2023年12月にかけてフロリダ州は5107冊を禁書扱いにした。同州を含め11州が100冊以上を学校図書館などから撤去したという。