「オリオンビールだけが成功するのではなく、地元企業含めて沖縄全体が潤えば…」凄腕社長が多角化戦略の目標に掲げる「沖縄製造業として初の上場」
ビール会社特有の習慣打破のために追求した「バリュー」
人口減少が進む地域では、相対的に1人当たりのビールの飲酒量は減っていいくため、従前の評価基準ではマッチしないのだ。 「私は『ボリューム』ではなく、『バリュー』を追求しようとよく話しています。例えば、たくさん量を売ろうと思えば、安くしたほうがいいわけです。一方で高いものを売ろうと思えば、そこには創意工夫が必要になります。プライシングや売り方、マーケティングなどを試行錯誤し、数字を作りにいかなければなりません。 このように、社員の目線を利益志向に変えていったのも、オリオンビールの売り上げ向上に寄与した要因になっていますね」 しかし、社員の士気を高め、目標必達させるためには、新製品や新サービスを投入するだけでなく、成功させなければならない。「とにかく成功にこだわった」そう語る村野氏は、時間と労力をかけてどんなことに取り組んできたのだろうか。 「2022年10月に発売した『オリオン ザ・プレミアム』は社員がゼロから作り上げたプレミアムビールで、理想の酵母と出会うまでに沖縄本島の花や草木から3000以上の酵母を採集しました。『世界に誇れる沖縄を、もうひとつつくろう』という思いから、沖縄出身の音楽アーティスト・Awichさんや沖縄県民の方にCMを出演してもらい、沖縄の魅力を詰め込んだ形でプロモーションしたのです。その結果、オリオンビール史上最高の出荷数を記録し、成功を収めることができました」 製品が売れると、会社の流れが変わってくる。社員の努力が実れば、それが自信につながる。まさに好循環を作れたのが、オリオンビールの増収増益につながったのではないだろうか。
“量”から“質”の転換に伴って進める多角化
その一方で、オリオンビールは「オリオンホテル 那覇」と「オリオンホテル モトブ リゾート&スパ」という2つのホテルを所有している。 前者はファミリー用の客室やビアダイニングを2023年11月に新設。 後者も2024年4月に、全23室あるスイートルームの全面改装や、オーシャンウィング棟の最上階にある客室をプレミアムフロアへリニューアルするなど、積極的な投資を行なっている。 オリオンビールを多角化させる狙いについて、村野氏は「オリオンビールは沖縄と共に成長することを鮮明に決めたから」だと理由を述べる。 「沖縄と共に成長する2つのドライバーとして『酒類清涼飲料事業』と『観光ホテル事業』を定め、これらの事業領域には今後も投資を強化していく予定です。これまでのビールメーカーから総合酒類化へ舵を切り、チューハイやワインなど、多様な製品を販売していくのに加え、『沖縄に来て、楽しい時間を過ごし、沖縄を好きになってもらう』には、観光不動産事業も欠かせない要素だと考えています」 村野氏曰く、沖縄の観光は“量”から“質”への転換が求められているという。 2025年にはオリオンホテル モトブ リゾート&スパに近接する沖縄県北部の今帰仁村に大型テーマパーク「JUNGLIA(ジャングリア)」の開業が控える。 決してインフラが潤沢ではない沖縄が、ある種オーバーツーリズム状態になった際に、サービスの質が肝になってくるというのだ。 「ビールと関係ないワイン事業を始めたのは、量ではなく質にこだわる方が多い傾向にあり、そういった方々の支持を得ることが重要と考えるからです。そこで、糸満市観光農園のワイナリーを立ち上げてワイン開発に乗り出し、さらにはオリオンホテル那覇の1階に世界各国のワインを取り扱う『ENOTECA(エノテカ)』を誘致しました。エノテカは沖縄初出店で、県内随一を誇るワインのラインナップが揃っています」 酒類清涼飲料事業と観光ホテル事業の2つがシナジーを生み出すことで、「沖縄の楽しかった思い出」や「沖縄へ行きたいと高揚する気持ち」が想起され、それがオリオンビールの成長にもつながるし、ひいては沖縄の成長にも貢献する。 そのようなメカニズムを作っていきたいと村野氏は言う。目指すのは、沖縄の製造業では初の上場だ。 「オリオンビールだけが抜け駆けして成功しても意味はありません。沖縄全体としての成長に貢献していきたいですし、しっかり上場を果たすことで、弊社の取引先である沖縄の地元企業の信用にもつながればと思っています。オリオンビールが県内外や海外のお客さまから好かれ、沖縄も好きになってもらうことで、それが巡りめぐって沖縄の企業も潤うわけです。 南天に輝く星の『オリオン』を輝かせるように、沖縄の発展や知名度の向上を目標に掲げる『Make Okinawa Famous』を体現するために、これからも尽力していきたい」 取材・文・撮影/古田島大介
---------- 古田島大介(こたじま だいすけ) 1986年生まれ。立教大卒。ビジネス、旅行、ライフスタイル、エンタメ、イベント、カルチャーなど興味関心の湧く分野を中心に執筆活動を行う。社会のA面B面、メジャーからアンダーまで足を運び、現場で知ることを大切にしている。 ----------
古田島大介