日本で痛打されたのになぜ? 今永昇太の“高めの直球”がMLBで異彩を放つ理由 背景にあったバウアーの「逆説」
今永の直球がメジャーの打者を幻惑させるワケ
日本でもバレルゾーンを意識する選手は以前よりも増えてはきている。だが、いまだレベルスイングでコンタクト率の高さを重視したバッティングをする傾向は強く、高めのストレートを長打にされるケースは目立つ。 ゆえにメジャースタイルで挑んだバウアーの高めのストレートは、いとも簡単に弾き返され、今永も被ホームラン率は決して低くなく、高めのストレートで被弾することも散見された。 自らの経験はもちろん、チームメイトだったバウアーの両極端な姿を目の当たりにした今永の脳裏には、しっかりとこれらの事象がインプットされていたと考えられよう。 また、昨季途中から肘のアングルを下げたフォームも、メジャーでは効果的となっていそうだ。昨年は「スライダーを曲げるため」や「ストライクを取りやすくするため」とフォーム変更の理由を説明していた。この時点で今永がメジャー挑戦に向けた試みとして取り組んでいたかは不明だが、結果的に功を奏していることは明白だ。 178センチと米球界においての今永は小柄な部類に入る。彼が日本よりも傾斜のついたマウンドに馴染む意味でも、角度を付けるのではなく、より水平に体重移動をする現フォームは効果的になっている。さらに肘を下げ気味に振ることで、低い位置から高めに吹け上がるような“ライジングボール”が打者を幻惑させている。 結果的に、全投球の6割近くを占める自慢のフォーシームで、屈強な大男たちのバットを次々と空を切らせている。メジャーでは決して速くない最速153キロ、平均148キロの直球を武器に、奪三振率9.29と、昨年の日本での10.58に迫る数字にも繫がっていると見る。 この点も、メジャーでは決して恵まれた体躯ではなく、完全なオーバースロー投手でもなかったバウアーとの共通点と考えられる。「いろんなアドバイスもいただけましたし、マインドもスキルも間近で見られた。僕自身のキャリアをしてものすごくいい1年間をバウアーとともに過ごさせていただいた」と感謝を口にし、変化球や投球術について常に情報交換をしていた2人だっただけに、フォームを含めあらゆる面で参考にしていたとしても決して不思議ではない。 2009年の冬。横須賀にある球団施設「DOCK」で初遭遇し、昨年はともに戦う仲間となった“投げる哲学者”と“ベースボール・サイエンティスト”。運命の目に見えない糸でつながったサイ・ヤング賞投手のエキスも力に、今永はハマのスターからシカゴのエースへと昇り詰めていく。 [取材・文/萩原孝弘]