お笑いファンに衝撃…昨年の「M-1」王者がガチンコで連覇を狙いにきている
相当な覚悟が必要
また、「M-1」に挑むというのは、芸人にとって相当な覚悟が必要なことである。1年かけて必死でネタを作り、それを磨き続けなければいけない。多くの芸人はその苦労を二度と味わいたくないと考えるので、優勝した後にまた出ようとは思わないのだ。 でも、令和ロマンは再出場を選んだ。それはなぜかというと、優勝した年の「M-1」が、彼らにとっては必ずしも満足のいくものではなかったからだ。 高比良は、自分たちが勝つことよりも、「M-1」という大会そのものが盛り上がることを望んでいる。全員が活躍して、爆笑をさらって、良い空気が生まれることがベストだと考えている。 でも、彼らが出た年は、ネタの順番のめぐり合わせの問題などもあり、予想よりも盛り上がりに欠けるものとなってしまった。だからこそ、トップバッターで出場した彼らにたまたま優勝という結果が転がり込んできた。そのことに彼は不満を感じているのだ。 こんなのは俺が望んだ「M-1」の理想的な姿ではない。だから、もう一度出て、今度こそは理想の「M-1」を作る。そして、勝つ。 高比良は大筋でこのようなことを主張している。おそらく多くの人がにわかには信じがたいと思うのではないだろうか。誰もが優勝するために必死になっているあの舞台で、自分の勝利よりも大会の盛り上がりを求める芸人など存在するわけがないだろう、と。 しかし、彼の言動を追っていくと、どうやらそれが本気であることがわかる。実際、彼らは優勝が決まった瞬間にも感極まって涙するようなこともなく、落ち着き払って淡々とした表情を浮かべていた。「こんなはずじゃなかった」というのが彼らの偽らざる本心なのだ。 もちろん、チャンピオンの彼らであっても、予選の段階で優遇を受けられるわけではない。決勝にたどり着く前にあっさり負けてしまうことも考えられる。それでも、令和ロマンは連覇を目指して再出場を選んだ。 前年王者の令和ロマンの連覇を阻止する芸人は現れるのか。究極のヒールとして彼らが立ちはだかる今年の「M-1」では、どんなドラマが見られるのか楽しみだ。 ラリー遠田 1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務めた。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)など著書多数。 デイリー新潮編集部
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