〈増税で財政赤字解消〉所得税と固定資産税、どちらを重くしたほうが効果的?【経済評論家が解説】
日々膨らみ続ける、巨額の財政赤字。いますぐ国家が破綻することはないにしろ、対策可能なら、速やかに手を打った方がいいはずです。選択肢として「増税」が考えられますが、その場合、所得税と固定資産税、どちらを重くした方が効果的だといえるでしょうか。経済評論家の塚崎公義が解説します。 年金に頼らず「夫婦で100歳まで生きる」ための貯蓄額
無理なく増税できるなら、ぜひやるべき
筆者は、財政が破綻する可能性は小さいと考えており、10年経てば増税が容易な時代が来るから増税を焦る必要はない、と考えています(拙稿 『日本政府「巨額の財政赤字」が弾け飛んだその先は?――「日本円の紙クズ化」から急展開する、まさかのシナリオ【経済評論家が解説】』 参照)。無理に増税して景気が悪化・失業が増えるようなことは避けるべきなのです。「景気は税収という金の卵を産む鶏」ですから、無理な増税は財政にも悪いかもしれませんし。 しかし「財政赤字は放置してもいい」と思っているわけではなく、無理なく増税できるならすべきだと考えています。財政赤字が続いて政府の借金が増えるということは、人々が持つお金が増えるということですから、なんらかの拍子に人々がインフレを予想すると買い急ぎが起こり、本当にインフレになりかねないからです。コロナの最中に国民に一律10万円が支給されましたが、あれが一律1億円だったらなにが起きていたか想像すればよいでしょう。 急激なインフレになり、日銀が金融を引き締めて景気が急激に悪化すれば国民生活に悪影響がありますし、金利上昇は財政部門の利払い負担を増して一層の財政赤字をもたらすかもしれません。 固定資産税の増税は、人々の懐を寂しくさせるので、消費等にマイナスですが、一方で固定資産税の高い地域から低い地域への引っ越しを促すので、住宅建設等が増えて景気にプラスの影響が生じることが期待できるでしょう。所得税の増税よりも景気への影響は軽微だろうと思われます。「無理なく増税できる」わけです。
固定資産税を増税すれば、東京の「一極集中」を是正できる
筆者が固定資産税の増税を主張する最大の理由は、東京一極集中の是正に寄与すると期待できるからです。東京一極集中は、通勤ラッシュや大気汚染等々、弊害が大きいですし、後述のように大災害の際の被害を甚大化させかねません。 個々人にとっては、東京に住むメリットがデメリットを上回っているから東京に住んでいるのでしょうが、個々人が東京に住むことによって他人に迷惑をかけているわけですから、「外部不経済」であり、公害企業のようなものです。東京の人々は、お互いに迷惑をかけあっているのです。 周辺住民に1万円の被害を与えている公害企業があるとして、利益が1円ならば、閉鎖すべきでしょうが、利益が10万円ならば「操業を続けていいが、周辺住民に1万円の迷惑料を支払え」というのが合理的でしょう。 固定資産税を増税することで、東京の住民に「迷惑料」を支払わせ、出て行く人を増やせばよいのです。東京に住めば稼げるという人、東京が好きだから税金を払っても住みたいという人などは残り、そうでもない人は出て行く、ということになるでしょう。 企業も、東京都心にいれば稼げるという企業は残ればいいし、郊外や地方都市に移転してもいい、という企業には移ってもらえばいいでしょう。営業部門は都心に、経理と人事は郊外に、という会社が出てきてもいいでしょう。 東京都心から人が出て行くことで過密が緩和される一方で、郊外や地方都市は人口が流入し、発展することが期待されます。これも望ましいことです。つまり、固定資産税増税により人口を移動させることは一石二鳥なのです。 増税の方法として、「東京都民に増税」では、近隣諸県との境界付近に住む人と近隣諸県に住む人の負担差が生じてしまいますし、都心の住人と郊外の住人の負担に差をつけるべきでしょう。その点、固定資産税の増税であれば、地価が高いところほど税負担が重くなるので、都心から郊外への移転を促す一方で、東京と近隣諸県との県境を挟んだ短距離移動は起きにくいでしょう。